KnightsofOdessa

あばずれ女のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

あばずれ女(1979年製作の映画)
5.0
[夢想空間へと暴走する誘拐事件] 100点

これは大傑作。いきなり狂人のオンパレードでこっちまでおかしくなってしまいそうになる。主人公の娘マドーは学校にも馴染めず、夜中に帰ってきた母親の肩を叩いて一言"死ね"と言われる。そんな彼女を一目見ただけで虜になった青年フランソワは、"彼女のニキビを治してあげたい"と誘拐する許可を母親に取りに行き、勝手に自転車で誘拐する。フランソワは廃品回収で日銭を稼ぎ実家の納屋に暮らしている貧乏青年で、誘拐も正味ノープランだが、マドーとて帰る場所もないので雑な脅しに乗っかる形で誘拐監禁は成立する。そして、拠り所のない二人は、理解者を得たという共通点を基軸に接近していく。なんと奇妙な映画だろう。

どこか緑がかったフィルターを通して観る誘拐犯とその被害者の物語は、ストックホルム症候群などという概念を軽々と飛び越えていき、二人は兄妹のような夫婦のような母子のような関係になり、マドーがフランソワを支配していくまでに至る。二人の空間は監禁場所であるフランソワの粗末な部屋に限定され、マドーを内側に監禁するはずの扉が、次第にフランソワを内側に入れない扉に変化していき、小汚い部屋がユートピアへと変貌を遂げる。あまりにも華麗な変貌のため、マドーはフランソワのイマジナリーフレンドなのではないかと思えてくる。また、フランソワの考える罰よりも壮絶な罰を受けてきたマドーは、"あんたヤワね"と言いながら彼とその母親との仲直りをお膳立てすることで自身の親子問題を擬似的に解決しようとしているため、フランソワこそマドーのイマジナリーフレンドである可能性も出てくる。何れにせよ、フランソワの部屋でのみ成立する関係であることは双方が熟知しており、テレビのために母屋へ降りたり、脱走を企てたりしても結局は部屋にたどり着く不思議さは、相互理解に起因しているだろう。

甘い詩情を破壊するラストも最高。5秒位でフラクを回収する感じは何物にも代えがたい。

追記
なんと主演のマドレーヌ・デドゥヴィーゼは15歳という若さで亡くなっていた。白血病だったらしい。R.I.P.
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