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南極料理人のamuのネタバレレビュー・内容・結末

南極料理人(2009年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

とんでもない傑作に出会ってしまった…
付けれるものなら10星付けたい。


これまで観たことのある沖田修一監督の作品は、「横道世之介」、「さかなのこ」で、どちらも大好きな作品だが、本作はさらに頭ひとつ抜き出ていたというか、めちゃくちゃに好みだった。そしてまたしても鑑賞後の余韻が凄い……


隊員と子供たちのビデオ通話の場面で、西村くん(堺雅人さん)が言った「おいしいもの食べると元気が出るでしょう?」は、この作品の言わんとする最たる部分であり、シンプルながらとても温かく響いた。自分の娘(小野花梨さん)と通話していると気付かぬまま、一番伝えたい相手に送ったメッセージだったことも胸を熱くした。

料理は調理シーンも含めてその全てがとにかく美味しそうで、みんなが夢中になって食べる様子は(せっかくの味付けや盛り付けも各々の好みに変えられちゃうことも含めて)多幸感に溢れていた。

特に印象的なのは、握るシーンから食欲をそそられたおにぎりと豚汁、満場一致だったのにの伊勢エビフライ、本さん(生瀬勝久さん)へのザ・お誕生日肉、そしてやはりラーメン。タイチョー(きたろうさん)の落ち込みようには涙が出るほど笑ってしまった。毎日食べても飽きないくらい好きな食べものの表現として耳にする言葉でありながら、あれほど面白い「僕の身体はラーメンで出来ている」があっただろうか。

また、カメラワークもとても好みだった。基地の中から見た外の景色と、外から見た中の様子を小窓を通して撮られた絵面は、その画だけでこの作品のシチュエーションである氷の世界で過ごす温かな人間模様を表現していた。

引きの画は南極の広大さをまるでミニチュアのように可愛らしく映し出し、寄りの画は人の心にフォーカスしその心情をも感じ取れるようだった。全員の様子を長回しで見せる画も役者が細部に渡って細かな演技で魅せてくれているからとても効果的であったし(最後の食事シーンの長回しが最高すぎて痺れまくりでした)、青空の下の静止画のような絵面も、食卓の真俯瞰アングルも、野球のシーンの色使いも、松明のようになったお肉を持って走り去る画が手前の車越しからの構図でその距離感を感じさせているところも、親子で同じポーズでテレビを観る後ろからのカメラワークも、どれをとっても素晴らしかった。ちなみに野球のシーンの最後、セルフタイマーで記念写真を撮る場面、使われていたカメラがCanon EOS5なの某プロのカメラマンさんが、極寒の地でもCanonは使えると言っていたことを思い出した。(極度な高温、低温の環境ではフリーズしてしまうカメラは多い)

ぺちょっと揚げられた唐揚げから料理の苦手な奥さんを回想させるシーンにはそんな伏線回収までされると思っていなくて(伏線と思っていなかったし)不意打ち泣きもさせられ、脚本のレベルの高さも半端なかった。

本さんを演じる生瀬勝久さんは冒頭の麻雀シーンからもうずっと面白くて、ビデオを見ながらやる体操のシーン(なんか楽しそうな片足跳び、女性の背中の開きへのリアクション)も好きだったし、だけどお子さんとの電話シーンや、食事のあとの西村くんとの会話シーンなどは笑いだけじゃなく泣かせの演技も本当に素晴らしく、ここがさ、電車とかで通えたら良かったのにね、にはぐっときました。

お医者さんらしかなるドクター(豊原功補さん)の簡易スナックみたいな存在も面白かったし、節分のお豆の話の時の「西村くんは、ピーナツの使い方がうまいよね…」の言い方もめちゃめちゃ好きでした(箸置きにリメイクされたピーナツの殻の画がシュールで面白い)。高良健吾さんをはじめ隊員の皆さん全てのキャラクターに魅力があり、最高に素敵なメンバーでした。子役時代の小野花梨さんの演技も素晴らしかった。

南極に行く前の日常と、南極から帰ってきてからの日常の見せ方も素晴らしかった。南極に行っていた一年半の間に小さな女の子だった娘ちゃんが少しお姉さんになり、赤ちゃんだった息子くんが走り回るくらい大きくなっていてほっこりじんわり。同じポーズでテレビを観なくなったシーンなどから、子供たちの成長は嬉しい反面、寂しさもあるのかなとセンチメンタルみを伴ったところからの、これからは隊員たちにではなく家族のために料理を作る父を思わせるラストに、目頭が熱くなりました。

日本に帰ったらビーチバレーしたいと言っていたシーンが組み込まれたエンドロールは、曲の良さも相まってめちゃくちゃに泣いた。もう、ディスク買おうと思います!(真顔)※「さかなのこ」でも同じようなこと言った気がする。

自分の気持ちに薄々気がついてはいましたが、この作品で完全に沖田監督に恋しました…!


…後述…

「豪華版」のディスクを購入しました!(笑)

全体を包む透明のスリーブケースは、あの小窓を思わせる仕様となっており、封入されたブックレットも細かなエピソードや写真が付いたオールカラーで、デザインがまたとても可愛らしくテンションが上がります。伊勢エビフライ・おにぎり&豚汁・お誕生日肉・ラーメンのポストカードも付いていたので(お気に入りのお料理ラインナップ!)、早速フレームに入れて、まずは伊勢エビフライを部屋に飾りました。未公開シーンを含む特典映像はあとでゆっくり観たいと思います!!!!

ちなみに。「横道世之介」のスペシャル・エディションとセットになっていたので、久々に世之介も観る。

近年、映画鑑賞はサブスクで十分と思っていたけれど(もちろん映画館も◎)、フィジカルなものの良さを改めて感じ、幸せに浸ってます。お気に入りが手元にあることの幸せ。あ~やっぱり「さかなのこ」も買おう~!(笑)
amu

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