笹川パンダ

名刀美女丸の笹川パンダのレビュー・感想・評価

名刀美女丸(1945年製作の映画)
4.3
溝口健二の長回しにはグルーヴがある。決して長回しのための長回しとはならず、芝居を主体として必要に応じたカット割が為されている。凡百の長回し映画や近年流行りのスローシネマとはまるで違う。
溝口の長回しが退屈しないどころか緊張感を持続させるのはグルーヴ感ゆえである。
溝口の芝居の特徴は、アクションと台詞の応酬にある。
台詞終わりに身体がグッと対話する相手に寄る。相手の台詞の狭間に顔の向きを変えて視線を逸らす。自らの感情の高まりと呼応して僅かに手を地につく。
また、台詞のテンポや声の大小によっても音楽におけるドラムさながらグルーヴを醸し出す。台詞は身体運動と見事に絡み合う。

また、芝居のみならず、刀がキラリと光る瞬間や、刀を打つときに散る火花、お嬢さんと仇とが向かい合うときに飛び火してきた炎など、繊細な彩りも欠かさない。

それら大きな運動から微細な運動までが実に目まぐるしくひとつのショットの中で巻き起こるのが溝口健二の長回しである。

そして、なにより山田五十鈴の敵討ちが良い。実際には色々あったようでもあるが、やはり溝口は先進的なフェミニストで、女性剣士の話に落ち着く。山田五十鈴の刀を手にした立ち姿がいい。

ラストの流れるような舟まで美しい。
たしかに他の傑作群と比較した時に多少の物足りなさはある。しかし、それでも流石は溝口健二の映画である。
笹川パンダ

笹川パンダ