ロンビュー

かくも長き不在のロンビューのレビュー・感想・評価

かくも長き不在(1960年製作の映画)
3.4
戦争に行った夫が帰ってきたことに対しての喜び、そして素直な愛情を見せながらも相手の気持ちを理解しているとは言えない行動をしているテレーズ。そして、徹底した記憶喪失がいい。メインの人物が記憶を失うというのは映画では度々見かける設定ですが、変に思い出したりなどしないのがラストシーンの強調に効いたと思います。

中盤くらいまではアルベール(らしき人)がテレーズにプレゼントをして、それを彼女が喜ぶという順調な展開でしたが、予想を裏切る展開や順調に行かないのが映画の常ですので、不穏な空気を感じ取りました。そして、その予感は的中し、テレーズの「彼を返して」というような歌詞の曲を一緒に聞いたりするなどの行動がアルベールに不快感を覚えさせます。

最近、私は『九龍ジェネリックロマンス』という漫画を見ましたが、その漫画でも出てくるように、記憶喪失やクローンの存在により、生まれたジェネリックな人格への問題がこの映画にもあります。アルベールは記憶を無くし(恐らく自衛のため)新しい生活を手にしてますが、テレーズは過去を思い出させようとすると同時に今の人格には消え去って欲しいと切に願っています。そのことを勘づいたアルベールの気持ちは曲を聴いている時の何とも言えない表情やその後テレーズから離れようとするところに現れていると思います。

そして、この映画は反戦のメッセージが込められているということで有名ですが、私は終盤のアルベールの行動を見るまではいまいちそれに気づけませんでした。彼の呼び止められることで記憶喪失に陥りながらも反射的にしてしまった行動には彼の戦争で負った心の傷の深さが伺えます。

監督が編集に携わっている人というのもあり超自然なジャンプカットや暗転の多用、車に轢かれそうになるシーンなど急にドキッとするようなシーンも良かったです。
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