イルーナ

ノートルダムの鐘のイルーナのレビュー・感想・評価

ノートルダムの鐘(1996年製作の映画)
5.0
90年代のディズニー・ルネッサンスの最高傑作の一つと呼ばれる本作。
実は数年前に劇団四季の演目でこれを観て、実に重厚な感動を与えられました。
四季を観に行くのはこれが初めてだったのですが、「さすが四季だ!レベルが違う!」と一日中感激しきりで。
そもそもこの文芸大作をチョイスする時点でものすごく大胆なのですが、それを全年齢向けにアレンジできた当時のディズニーはどれだけ脂が乗っていたか伺えます。

で、作品を観てみると、もう初っ端からクライマックスというレベルで完成度が高い!
街の立体感といい、カメラワークといい圧巻なのですが、これに荘厳なコーラスが重なってただただ圧倒されます。
実際、吹き替えも四季のメンバーという錚々たる顔ぶれ。本当に四季の演目の再現度は高かったんだな……と、改めて感動しきりです。
テーマ的にも、障碍者差別、人種差別と、製作当時を考えると相当攻めたテーマ。
昨今ではポリコレポリコレ言われるディズニーですが、この作品の方がよっぽど自然に描けている。
ただ人種を置き換えただけで物語上意味のないキャスティングや、配慮に配慮を重ねまくった結果歪んだシナリオといった実写化作品を考えるとなおさら。
というかリトル・マーメイドやピノキオ、ピーターパンよりこっちの方が実写化向きだろうに……

シナリオも、ジプシー娘エスメラルダ(優しくたくましく、そして魔性の魅力を兼ね備えたキャラ造詣が素晴らしい!)に向けられる三者三様の愛が時に繊細に、時に大胆に描かれる。
特に本作最大の名物キャラフロローは、本当にすさまじいキャラ造詣。
正義の名のもとに異民族弾圧、自分の過失で死なせた母親の子(カジモド)を軟禁して支配する毒親ぶり、そしてまさに弾圧していた異民族出身のエスメラルダに惚れ込んで(髪のにおいを嗅ぐというセクハラまでかましてくる)、その信じる正義との矛盾からついに暴走。
決して受け入れられることのない歪んだ欲望は、パリ全土を炎に包むのだった……!(最初に焼かれた風車小屋、あれ『フランケンシュタイン』のオマージュだよね?)
いやー、改めて、ディズニー最狂のヴィランの称号は伊達じゃないです。特に『Hellfire』のくだりは圧巻。
自身の罪を認めつつも、信仰心とミソジニーと欲望に蝕まれ発狂していく様を圧倒的な表現力で描く。ここ筆頭に、本作は炎の表現がまさに「生きている」という感じで、恐ろしくも美しい。
巷では「キモい童貞ソング」とか言われてるけど、ただただ「凄い」という言葉しか出てこないです。
それだからこそ、同じくエスメラルダと結ばれなくても、他者の幸せを願い行動できたカジモドの尊さが際立つ。
フィーバス隊長も上司が暴走したらすぐに手を切れたり、放火された宿屋から即座に残された人を救助したりで正義感あるキャラ。そりゃその強さを見たエスメラルダも惚れますわ。
一方カジモドは曲がりなりにもフロローが育ての親なのでなかなか決断できなかったことを考えると、もう相手が悪かったとしか……しかもエスメラルダ視点だと被害者としての側面ばかり見えていたはずだから尚更。
(でもフィーバスは原作では浮気者かつ、追い詰められたらエスメラルダを売った挙句に最後まで生き残るという、本作との落差が大きいキャラだったりする)
こんなに複雑な恋愛模様を描いて、終わり方はすごく綺麗。本当によくここまで複雑な愛憎劇をまとめたものだと思います。
改めて、ルネッサンス期ディズニーの実力を見せつけられる作品でした。
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