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極北の怪異/極北のナヌークのTSのレビュー・感想・評価

3.8
【ドキュメンタリー映画の父】
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監督:ロバート・J・フラハティ
製作国:アメリカ
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:78分
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これから有名作を中心に鑑賞するといった矢先にあまり有名ではない作品を持ってきましたが、映画史黎明期の名作、はたまた「最古のドキュメンタリー映画」と言えるので一見の価値ありかもしれません。カナダの極北に住むイヌイットのある一家を、フラハティ監督が15ヶ月も追って完成させたドキュメンタリー映画です。
しかし、当時ドキュメンタリー映画という概念が曖昧であったため、これを「最古のドキュメンタリー映画」と言うにはやや語弊があります。また、実際の映像でも演出が加えられている部分もあるそうなので、完全なるドキュメンタリー映画とは言えなさそうです。しかしながら、こうやって現実の出来事をありのままに映そうとした映画は今作が最初であるため、映画史に果たした役割は大きいかと思われます。

およそ100年前の映画でして、もちろんモノクロサイレント。微かに音楽が流れる程度で、イヌイットのある一家の生活を淡々と記録しています。しかし、現代の我々が見ても興味深い映像がたくさんありました。例えばアザラシを狩って解体をしているシーン、また、イヌイットの家であるイグルーを作るシーンなどです。イグルーに関しては、わずか一時間で出来るのかと感心しました。ナイフを巧みに使い氷を加工していきます。日本でいう「かまくら」に似ていますが、これが彼らの「住」になるわけです。自分の住まいを毎回数時間かけて作るという概念が凄まじいです。また、ナイフを舐めることにより、その唾液が凍って刃がより鋭利になるというのも興味深かったです。極寒の地の人たちの知恵の賜物ですね。

それにしても、こんな極寒の中フラハティ監督はよく彼らの生活を粘り強く記録したものです。また、彼らからすると映像の文化などなかったと思われますので、フラハティ監督が何をしてるのかわからなかったのではないでしょうか?自分たちの生活を何故撮るのか?そもそも撮るとは?疑問はこのあたりからなるでしょう。ただ、フラハティ監督は彼らの生活に敬意を表して撮影をしたのでしょう。もちろん、最初は探究心から撮影したと思われますが、いつしか尊重する眼差しに変わってきたのでしょうね。

さて、今作はどのような評価を受けたのでしょうか?少なくとも、当時の事を考えるとイヌイットの生活なんてほとんどの人が目の当たりにしたことがなかったでしょうから、良い意味でも悪い意味でも衝撃的だったのではないでしょうか?アザラシをその場で解体して、家に持ち帰らずにその場で食べてしまうシーンなんてかなり衝撃的だったと思われます。
現在は、文化の多様性が重要視されますが、当時はまだまだ偏見が多かったと思われます。それこそ欧州の富豪がこの映画を見たら、どのような気持ちになったのでしょうか?やはり、悪い意味で野蛮と捉えたのでしょうか。このように、当時の人からすると様々な意見が飛び交いそうですが、フラハティ監督だけは真摯に彼らの生活を見つめたのでしょう。そうであってほしいです。

総合的に申し上げますと良かったです。映像の資料的価値も高いと思われますし、なにしろドキュメンタリー映画のパイオニアとなると意義は大きいです。また、今作は映画界が欧米などの自分たちだけの世界に留まらず、異界の地に足を踏み入れた証拠にもなり、あらゆる映画に影響を与えてきたのでしょう。版権が切れてるので、恐らくYouTube等で見れるはずなので興味を持たれた方は是非。ちなみにフィルマークスの表示では55分となっていますが、実際は78分ありました。
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