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夏時間の庭のaaaakikoのレビュー・感想・評価

夏時間の庭(2008年製作の映画)
3.5
夏も夏の庭も好きだし、タイトルだけ見てずっと見たかった作品なんですけど、実際見たら身につまされてイライラしてしまって、何回か一時停止して深呼吸しながら見ました。
ドラマ自体は静かなもので、とても良かったのですが、ただ自分の身に当てはまりすぎて腹が立っただけです。

相続でモメる、っつーのは2パターンありまして、ひとつは親が金持ちで都心の一等地とか株とか宝石とかの金になるものをたくさん持っていて、それを子どもたちが奪い合うというパターン。
ふたつめは、親がいらねーものばかり残していくパターン。つまり、買い手のつかない山林とか田舎のバカでかい家とか、境界線でモメてる土地、儲からない商売、あとは美術品価値がまったくない美術品、家具、絵画(つまりガラクタ)、手入れの大変な庭など。これらが残された場合、子どもたちはそれらを押し付け合うことになる。
そしてたいていは、要領の悪い兄弟か姉妹がそれらを引き受けるはめになる。
まさしくうちがそうで、うちの親は住んでる家と土地だけもらい、相続税と固定資産税にずっと苦しめられてきた。クーラーもない古い家屋で熱中症になりかかり、草取りや掃除、瓦屋根の修理など維持が大変。
他の兄弟は良い土地をわけてもらい、さっさと金にして都心のマンションに住み、たまに実家に寄っては「やっぱり田舎は良いわネー」などと言って帰っていく。
この家はaaaakikoちゃんがあとは好きにしていいのよ、売るなり勝手にしてねとかみんな言うが、先祖代々のガラクタどうすんだよ?掛け軸や茶器なんて今どき誰が買うんだ?蔵から火縄銃が出てきたときにはへたすりゃ銃刀法違反だと警察に言われたよ。土地を売るにしたって日本は更地にしなくちゃ売れないし、墓じまいだってしなくちゃいけない。

そんなことをこの作品を見て思い出し、やりきれなくなってしまった。
まだこの映画の中の家にあるのはちゃんとした美術品で、オルセーがほしがるほどのものだからうちなんかとは格が違うけど、それだとなおのこと維持管理が大変だったと思う。
それはやはりこういう家には、エロイーズのような有能な使用人がいましたがね。
案の定、この作品でも、無責任な弟妹たちが、愛着のあるものは売りたくないとか、オークションにかけて価値を見出せみたいな勝手なことを言っていたな。

断捨離、シンプルに生きるなどと人は簡単に言うけれど、立場的にそうできない者もいる。
「良い物は良いわよ」みたいなことを娘が言ったとき、母親が
「でも歴史を背負わない作品が好きなんでしょ?」
と言ったけど、結局みんなそうだろう。
そりゃそうだよ。古い物は良いなんて言うやつも、好みが合えばの話だ。

でもせめて、このような作品で、そんな鬱陶しい、でも愛しい歴史を背負うはめになった人の思いを知ってもらえたらいいと思った。

わたしだって、生まれ育ったあの古い家を、いつか壊すことになるのだろうと思うと悲しい気持ちはある。
だけどそうしなくてはいけない。古民家再生なんてのはファンタジーみたいなもの。
歴史や文化の守り人、みたいな言い方があるけれど、その「守る」っていう行為の中には、不必要なものを切って捨てていくということも含まれているのだなと、この映画を見て感じました。
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