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野性の夜にのtakのレビュー・感想・評価

野性の夜に(1992年製作の映画)
3.3
1990年代、エイズで亡くなった人々の訃報を何度も聞いた。中でも日本に紹介されて間もないタイミングで亡くなってしまったシリル・コラールは印象に残っている。フランスの歌手で、小説や脚本と多彩な才能を発揮し始めたところだった。モーリス・ピアラ監督作品では助監督を務め、本作は監督、主演、脚本を担当し主題歌も歌う。

遺作「野性の夜に」で彼が演じるのはエイズキャリアの青年ジャン。自分自身を投影した主人公が、エイズ感染から迫る死という現実を受け入れて、少しずつ行動を変えていく物語。自分が感染者だと告げずにローラと関係を持ってしまうジャンに、苛立ちを感じずにはいられない。さらに映画後半には男性の恋人も現れて、ローラは精神が不安定になってしまう。申し訳ないが、主人公に身勝手な男という印象が強く残って仕方ない。それでも一人旅立つラストは爽やかな印象。日々に流されて生きているスクリーンのこっち側の僕らも、一日一日を大事にしないといけないという気持ちにさせられる。

映画自体は唐突な印象を受ける編集やコラール自作曲が、ワンマン映画だけにちょっとナルシスティックに感じられる。それも彼の映画に対する真面目な向き合い方や思い入れの強さだと理解できる。

ただ、避妊具も使わずにローラと関係をもつ場面や、愛してるから病気までも受け止めたいと言わんばかりのヒロインの過剰な言動は、決して褒められるものではない。南野陽子主演作「私を抱いて、そしてキスして」みたいに多少説教くさい映画になる恐れはあるが、正しい知識が伝わるような描写は入れるべきだったんじゃないのか。コラール自身が実際にエイズキャリアだったのに。そう思えるのは、コロナ禍の今だからなのかな。

ロマーヌ・ボーランジェが演ずるローラがとにかく痛々しくって。でも僕はどうもフレンチロリータに弱いもので、この作品後の主演作でお気に入りの一人になるのでした。
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