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サスペリアのnetfilmsのレビュー・感想・評価

サスペリア(1977年製作の映画)
4.0
 その日は嵐のような大雨の夜だった。バレリーナ志望のスージー・バニヨン(ジェシカ・ハーパー)は、少し小走りな様子で見知らぬ駅構内を不安げな様子でキョロキョロしていた。彼女が構内のドアを開いた時、一瞬だけ妖気のような怪しげな風が彼女を襲う。地図も見ずに傘も差さないまま、街に出た女は大声でタクシーを呼び止める。密閉空間となった車内にはワイパーの音だけが聞こえるが、天気は回復せず、濁流のように氾濫した川の水が唸りを上げていた。アメリカの片田舎から、バレエ留学のため、ドイツの寄宿学校にやって来た少女を乗せたタクシーは、赤い館の前で停まる。雷鳴轟く中、建物の玄関では、若い生徒のパット(エヴァ・アクセン)が何者かに追われるかのように怯え、何か叫んでいた。彼女はどうやら秘密のドア、アイリスと言いかけたが、雷鳴とドアの開閉音に掻き消されてその声は聞こえない。彼女の顔は恐怖に怯え、雷鳴の只中を何かに怯えた様子で走る。その姿は後から主人公にデジャブのように襲いかかるのだが、期待に夢膨らませてドイツへやって来たスージーは自体の深刻さなど知る由も無い。

 『決して1人では見ないで下さい』というキャッチコピーと共に、70年代に空前のオカルト・ブームを巻き起こしたイタリアン・ホラーの傑作。ヨーロッパの由緒正しきバレエ学校の門を叩いたかに見えた主人公が、徐々にこの学園の闇に巻き込まれていく。ブランク夫人(ジョーン・ベネット)とミス・タナー(アリダ・ヴァリ)という戦前の大女優を物語の両輪に据え、スージーの手引きをさせる展開も見事だが、盲導犬に引かれる盲目のピアニストのダニエル(フラヴィオ・ブッチ)、ルーマニア人の下男パブロなど男役の強烈な個性が光る。真っ赤な鮮血、カーペットの赤を生かした原色の色彩美、悪魔の館で繰り広げられるルチアーノ・トヴォリの流麗なカメラワーク、イタリアのプログレッシブ・ロック・バンド「ゴブリン」が手掛けた危うい音響の魅力。残虐性とエロティシズムの極地のようなアルジェントの演出は、処刑シーンのどこを取っても情け容赦ない。授業が終わるたびにどこかへ消えてしまう教師たち、そして決して姿を見せない学長の存在が、恐怖描写に拍車を掛ける。クライマックスの密室の罠もさることながら、王の広場での殺害シーンのトラウマが網膜に焼き付いて離れない。
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