イルーナ

モンキーボーンのイルーナのレビュー・感想・評価

モンキーボーン(2001年製作の映画)
3.8
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』や『コララインとボタンの魔女』で知られるストップモーションの鬼才ヘンリー・セリックの実写作品。
ですが、20世紀フォックスが実験的な映画を作っていた時期の名プロデューサー、ローラ・ジスキンが半ば追放同然にコロンビア映画に移籍。
本作はちょうどその頃に作られていたばっかりに、前任者の映画としてまともに扱われず大コケしたという、不遇の極みのような作品。
……セリックは『ナイトメアー~』は未だに監督作とまともに認識されなかったりと、実力の割に報われない印象です。
しかし本作の作風を見てると、そんな不遇な印象を吹っ飛ばす怪作だったりします。

まず冒頭のモンキーボーン誕生の経緯からしてキてます。
何たって、担任の先生のたるんだ二の腕を見て性に目覚めた主人公の股間から誕生───というアニメから始まるのですから。
この時点でふるいにかけてきます。「あ、この映画普通の作品じゃない」と思ったら正解です。EDのアニメでも描かれるように、人間誰しも一皮むけば欲望全開のケダモノという。
というか本作、全体的に下ネタが多いのでめっちゃ人を選ぶ……

事故で昏睡状態に陥った漫画家のステュのたどり着いた先は、生と死の狭間の悪夢の世界「ダーク・タウン」。
ここのビジュアルは本当に凄い。ご飯何杯でも行けそうなくらい。本当に見ていてワクワクする。
昏睡状態のステュの身体がベッドの中に沈んでいったと思ったらジェットコースターに乗せられたどり着くというシチュエーション。
まさにシュールレアリズムの化身みたいなのばかりな住民。
ミノタウロスやヒプノス、サイクロプスなどギリシャ神話系が多いように感じられますが、それら全員アンバランスなデザインばかりで何とも不気味。
これらはステュの描いた悪夢の絵が由来とのことですが、この辺りメチャクチャ考察の余地がありそうだな。精神分析とか詳しい人が観たらより楽しめるんじゃないでしょうか。
悪夢を見るシーンはモノクロで描かれ、ゾワゾワ来るものがあります。飼い犬の見た悪夢は何と「去勢」……やっぱり精神分析関連に詳しい方が楽しめそうだ。
一方人間の住民はスティーブン・キングにリジー・ボーデン、フン族のアッチラ王など、あまりにもイミフな人選w
特にキングは、犬のクージョに身体を乗っ取られたという……w

終盤の展開は本当にキてますね。
自身の作ったキャラクターにして欲望の化身モンキーボーンに身体を乗っ取られ、現世の自分は欲望全開のケダモノ状態に。
身体を奪還すべく現世に復帰したステュですが、その依代というのが臓器移植用の死体!
患者そっちのけで死体を追い回す医者たち!
内臓をボロボロこぼしながらモンキーボーンと戦うステュ!
落ちた内臓はバーベキューの上に落ちてモツ焼き状態に!
(死体役のクリス・カッタンが間違いなく本作のMVP!)
という具合に、あまりにも不謹慎な展開がずっと続く。バートンよりよっぽど狂ってるじゃんセリック!
最後はステュの脳内にモンキーボーンが封印され正式に現世に復帰できてめでたしめでたし……と思いきや、死神デスは「代わりにサウスパークの作者を連れてくるわ」とか言い出す。
やめてくれー、あの作者のキャラクターたちはモンキーボーンよりよっぽど過激なのに、もし万が一現世に来たらとんでもないことになってしまいますよ……!
イルーナ

イルーナ