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ブリットのtakのレビュー・感想・評価

ブリット(1968年製作の映画)
3.8
 スティーブ・マックイーンは僕が映画に夢中になり始めた頃、大好きだった男優のひとりだ。僕が初めて雑誌「ロードショー」を購読し始めた中学生の頃マックイーンが亡くなって、テレビの洋画劇場では次々に出演作を放送した。だからラッキーなことに代表作と呼ばれるものはおおむね短期間にテレビで鑑賞することができた。僕は「華麗なる賭け」と「大脱走」が特に好き。「パピヨン」の不屈の闘志には涙したもんだ。「ブリット」もその頃にテレビで観たことがある。ラロ・シフリンのかっちょいい音楽と渋い雰囲気だけは記憶にあったものの、詳しいところはよく覚えていなかった。先日BSデジタルで放送されたのでウン十年ぶりに再鑑賞。

 改めて観ると思うのは、現代ハリウッド映画と違って説明くさくないこと。これはあの頃の映画ならおそらく多くがそうだったのかもしれない。ネットで若い世代の「ブリット」評を読むと、「わからん」「難しい」という声がよく見られる。確かにちょっと注意しないと物語の重要な局面を見落としそうになるかもしれない。でもね、この映画は「男のための男の映画」なのさ。イエーツ監督がハードボイルドぽく撮りたいように撮っている。クライマックスの空港の場面なんざぁ、台詞らしい台詞は一切なし。それでいて他の映画では見られない緊迫感が漂っている。製作者・監督・役者がとにかく自分らがかっこいいと思う映画を撮っている。観る者は黙ってついてこい!と言わんばかり。紺色のタートルネックに茶色のジャケット着るマックイーン。野暮ったく見えるという人もいるだろうけど、当時はかっこいいと思って撮っているんだから!。黙って映画について行けばいいのさ。

 恋人ジャクリーン・ビセットの気持ちが登場シーンが少なくてわからない、と言う人もいるだろう。でもね。これは「男目線の映画」なの。だからいろいろあっても、それでもベッドで自分の帰りを待っていてくれる恋人(この物言わぬラストシーンが素晴らしい)って、まさに男の理想(願望?)なんじゃない?。この製作者たちにとっては。

 それにしても心に残るのはサンフランシスコの坂道をうまく使ったカーチェイス場面。プロデューサーのフィリプ・ダントニは刑事ものが大好きな人。この3年後に製作するのが「フレンチコネクション」(71)!。今度はニューヨークを舞台に、車と電車のチェイスを撮っている。製作総指揮のロバート・E・レリアはこの後マックイーンと組んで「栄光のル・マン」(71)を撮る人物。車と男に美学を見いだせる人々の映画なんだろう。この映画でマックイーンが乗ったムスタングは人気が出たそうだし、ジャクリーン・ビセットが乗っていた黄色のポルシェも素敵。また、ブリットがロバート・ボーン扮する上院議員と対立し、自分を貫く反骨精神にもシビれますねぇ。シスコの市警ということならば、「ダーティー・ハリー」(71)のハリー・キャラハンの先輩刑事ってことだもんね。脇役にロバート・デュバルを発見したり、後の映画について知っている上で旧作を観るのって、映画ファンとしては実に楽しい。
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