とうじ

ヨーロッパ一九五一年のとうじのレビュー・感想・評価

ヨーロッパ一九五一年(1952年製作の映画)
5.0
本作は、決して資本主義批判であったり、社会主義プロパガンダであったり、キリスト教擁護であったり、ニヒリズムに耽溺する実存主義的なドラマであったりしない。そこに、本作の難解さがある。この物語の裏にどのような思想が込められているのか考察するような感想が散見されるが、そもそもそういう映画ではないのである(当時の評論家の中でも、そういう点で本作を批評するものが非常に多かったことは、アンドレ・バザンの論評を読めばわかる)。
一見バラバラな印象を与える、出来事のプレイリストみたいな本作の物語に一貫して共通するテーマがあるとすれば、それは「どうすれば幸せになれるのか」というごく単純なものにすぎない。
しかし、その問いは、真面目に向き合うにしてはあまりにも広漠としており、危険なものである。その事をわかりつつも、ロッセリーニはそれと骨太に対峙してみせる。
「本当の聖人というのはただのバカである」ということを描いた「神の道化師フランチェスコ」とは裏腹に、本作の主人公はバカになることができず、社会から逸脱することもできない。また、結局精神病院に入れられるものの、狂気の世界に逃避することもできない。彼女は矛盾を矛盾として直接受け止めなければならないくらいには至って正気であり、論理的である。であれば、彼女は永遠に苦しみから逃れられる<救済される>ことは無いのか??
気持ちいい反復や容易な結論をギュンギュンかわしていった先に、絶大な感動を呼び起こす、本当に素晴らしい映画。

本作の主人公はつまり、「生きる目的を失い、自殺する元気も出ない」という、現代社会の歯車となった人々の代表的な苦難を背負った、宗教や思想を超越した聖人に他ならないのである。
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