たく

愛怨峡のたくのレビュー・感想・評価

愛怨峡(1937年製作の映画)
3.8
これは掘り出し物。トルストイ「復活」を基にした溝口健二の幻の作品。まあとにかくフィルムの劣化が酷く、古い邦画の例に漏れずセリフが半分くらい聞き取れなくて前半で鑑賞くじけそうになったんだけど、終盤に向けてぐんぐん人間ドラマの緊迫感が高まっていってラストは完全に引き込まれた。やっぱり溝口監督すごくて、4Kレストア版とかでソフト化したら現代の層にも受け入れられるんじゃないかな。

宿屋の若旦那の子を身籠った女中がそのいくじなしの男に捨てられて、里子に出した子の生活費を稼ぐためなりふり構わず生きていく話。彼女に目をかけるヤクザ者との人情話になってるのがジーンとくる。
中盤、芳太郎が風俗店で働いてるすれっからしのキャストさんに出会って言葉を失うシーンがあって、セリフが聞き取れないから誰だか分らなかったけどこれがかつての清楚なふみと分かってびっくりした。この二人が旅の一座に加わって漫才コンビを組むんだけど、戦前からボケツッコミの日本の漫才スタイルが確立してて、こないだ観た「浅草キッド」を思い出させて感慨深かった。

河津清三郎のヤクザ者に滲み出る人情と、山路ふみ子の女の気丈さが心に刺さる。「浮草」で知った田中春男のいかにもお人良しなキャラも良かった。若き浦辺粂子が産婆さん役で出てたね。
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