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第七天国のTSのレビュー・感想・評価

第七天国(1927年製作の映画)
4.5
【恋愛映画至上の名作】94点
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監督:フランク・ボーゼージ
製作国:アメリカ
ジャンル:恋愛・戦争
収録時間:119分
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傑作。サイレント映画のマイベストが塗り替えられたかもしれません。本当にシンプルイズベストとはこのことであり、純粋すぎるこの恋愛映画は、しかし心の底から素晴らしいと思える作品でありました。これをトーキーでやると素晴らしさは半減するかもしれません。サイレントだからこそ表現できた部分が多々あったと思われます。

下水道の工事員であったシーコウは毎日地上の道路工事員になりたいと思っていた。一方、姉と二人暮らしをしていたディアンは毎日姉に虐待をされるのだが。。

虐待をされている女性が男性に出会う要素はグリフィス監督の『散り行く花』を彷彿させられます。流石にかのリリアン・ギッシュの目力には敵いませんが、それでもアカデミー賞主演女優賞を受賞したジャネット・ゲイナーは素晴らしい演技をしたと思います。こうして見るとモノクロサイレント映画は本当に良い。人物の力強い表情を表すことに関しては、もしかしたらカラーよりモノクロの方が優れているかもしれません。また、特に当時の民衆の生活を描くサイレント映画は秀逸なものが多く、今作もシーコウとディアンが過ごす安アパートがとても印象的に映りました。雑といえば雑なのですが、本当に当時の一般の人たちはこんな生活をしていたのかと、良い意味で唖然となってしまいます。

ここでいう第七天国とは、彼ら二人が住む安アパートの7階の部屋を指します。1.2階よりも天国に近い場所。そういう意味が含まれていまして非常に面白い。最初はツンデレなシーコウですが、徐々にディアンに心を開いていきます。かくして、この部屋は彼らにとって幸せな場、すなわち天国にもっとも近い場所となるのです。

と、これで話が終わるわけがなく、時代も反映しているのか「戦争」という要素が組み込まれます。改めて、愛し合う者たちが引き裂かれるという悲しい現実を目の当たりにしました。やっと幸せになれたのにそれを引き裂こうとする世の中。いや、もしかしたら神がそうしているのかもしれない。今作は何気に神の有無、神の在り方にも触れた作品でもあります。そもそもシーコウは自分が無神論者であるということを冒頭に明かします。その理由は至極真っ当なものであり、神がいるならば自分を下水道の工事員なんかにさせていないはずだ。と。はっきり言うと神の有無なんてのは人の都合によって決まります。自分が幸福であれば神はいる、不幸であれば神はいないというものであります。しかし、人間というのは面白い。都合により神の有無は変わるのですから、シーコウが幸せになればシーコウにとって神は存在するものとなるのです。
この人間の都合により神の有無が変化するのは非常に面白いです。つまるところ、神とは人生の指針でもあると僕は思っています。

とにかく今作は隅から隅まで素晴らしい。音楽も印象的であり、恋愛映画の礎を築いた作品であると思われます。作品賞は逃したものの、第一回アカデミー賞において注目を浴びた傑作。ベタといえばそれまでかもしれませんが、こういう原点の映画を味わうのもまた一興と言えましょう。オススメ。
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