ぽん

イントゥ・ザ・ワイルドのぽんのネタバレレビュー・内容・結末

イントゥ・ザ・ワイルド(2007年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

アニエス・ヴァルダの「冬の旅」(1985)のようなお話。でもこっちは実話なんですね。ジョン・クラカワーのノンフィクション小説の映画化。

「冬の旅」はフィクションだけど、凍死した放浪者の青年の話(実話)が下敷きになっているらしい。人の死は多かれ少なかれ衝撃を受けるものだが、野垂れ死にっていうのは相当インパクトが強い。現代に生きる私たちは社会のシステムにがっちり組み込まれている。そんな中“死”はライフイベントの一つとしてある程度、形が定まっているもんじゃないかと思う。年老いたら病気で入院してーとか薄ボンヤリ想像できたりする。突然死や孤独死であっても、そこに至るまで社会に包摂された生活が続いていたなら、不運な死の形の一つとして、それはそれで了解可能な気がする。(十分どんよりするけど) それに比べて、社会から逃れてたった一人で放浪の旅を続け、最後に野垂れ死にするというのは想像を絶する痛ましさだ。特にそれが若い人だとかなりショッキング。アニエス・ヴァルダもきっとその衝撃に突き動かされてあの映画を作ったんじゃなかろうか。しかも主人公が女の子だったから余計に辛かった~。

前置き長くなりましたが、この作品もそんな無常を見せつけられて胸が苦しくなるものでした。名門大学を卒業した青年が、物質文明を憎悪して一人旅に出る。両親の不仲に傷つき、横暴な父親への反発もあって、自分が置かれた環境すべてを唾棄するように辺境へと向かう。終盤、狂気を帯びてくるエミール・ハーシュの一人芝居に息をのんだ。この人、キレイなジャック・ブラックって感じ。(JBに謝れ)

文明に毒されたくないとアラスカの荒野を目指し、自分で考えた新しい名前アレクサンダー・スーパートランプを名乗る、彼の青臭さを笑う気にはなれない。金銭より愛より真実が欲しいんだとソローを引用して語る、その真っ直ぐさが気恥ずかしくも眩しい。若さの特権か。

旅の途中で出会う大人たちが印象深いですね。いい出会いを経験してるよこの子は。(←親戚のおばちゃん目線) 皆さん、この若者を心配し危険から守ってあげたいと言葉をかけてくれる。ピュアで頭でっかちで独善的な青年を優しくたしなめ、公正さや寛容さ、現実との折り合い方を説いてくれる人生の先輩たち。そんな人々との交流を享受しながらも、この子は風のように去っていく。残された大人たちの喪失感たるや。これ、けっこう刺さった。やっぱり今の自分はどうしたって大人側の立ち位置にいて、そっちに共感を覚える。たぶん短期間の滞在だと思うしシークエンスとしてもそれほど長くはないのに、人と人との確かな繋がりが感じられて、別れの辛さが胸に迫るのだ。同時に、行方知れずの息子の消息を案じる両親が、苦悩を共有することで絆を取り戻すのも、とても哀しい皮肉だった。

それにしても。この青年の日記や手紙の文章に表れる瑞々しい感性には瞠目するし、こんな体験を経て孤独のままに荒野に潰えてしまったという事実には、恐怖に近い感覚を覚える。作家の手によって世に知らしめてもらえて、良かったんじゃないかなぁ報われたんじゃないかなぁと、またまた親戚のおばちゃんの心境。人知れず水を落とし続ける山奥の名もない滝が発見されたような感慨。

荒野でのサバイバル生活は、最初のうちこそソロキャンプのYouTube動画みたいなレジャー感覚で観ていたが、次第に辛くなってくる。自然ってそんな生易しいもんじゃない。怖い。この子はちゃんと戦ってるし気構えとしては甘ったれてもないけど、それでも打ちのめされてしまうのね。この辺も考えさせられる。人生ってもんについてさー。ああメンがヘラる春先にこういうのは観ない方がよかったかも。しんど。

最後の最後に彼は一つの真理に到達するのだけど、この今さら感ね。ああ無情ですよ。クライマックスの演出は過剰な感じがしてしまったけど、役者だったらココ見せたいよね、演りたいよねってシーンになってた気がする。ショーン・ペンが監督だからかしらドヤ感すごくて。(勝手言ってます) まぁ、そのおかげで冷静になれて虚無の嵐から救われましたが。

原作、読みたくなりました。ジョン・クラカワーの他の本を読んで面白かったので本作にたどり着いたという、変則的なベクトルでの作品との出会いに感謝。(さっきメンがヘラってどうのとか文句つけてたくせに)
観るべきなのに見逃してる作品がまだまだ沢山あるだろうから、落ち込んでる場合ではありませんな。

そして彼が最後に到達した真理・・・については余りにもネタバレ過ぎるので、一応、下の方にw
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彼が書き残した最後の言葉

「幸福が現実となるのはそれを誰かと分かち合った時だ」

気付くの遅いよ。涙
ぽん

ぽん