KANA

蜘蛛巣城のKANAのレビュー・感想・評価

蜘蛛巣城(1957年製作の映画)
4.3

黒澤作品8本目の鑑賞。

シェイクスピアの『マクベス』を日本の戦国時代に置き換え、様式美にこだわり抜いて描いた武将の一大悲劇。

素晴らしい!!

辺り一面に霧がたちこめるゴシックでミステリアスな世界観。
そこに、能の美学と哲学を見事に組み込んでいて心底惚れ惚れした。

冒頭でまず蜘蛛巣城の跡を不気味に映し、そこから何故滅んだかが語られ始める。
雰囲気だけでなく、観終わると(夢幻)能を通じて諸行無常や因果応報という仏教の本質をさりげなく被せてて、『マクベス』のテーマ(人間の弱さ・愚かさ)をより芸術的に強調してる気がした。

三船敏郎の目を剥きっぱなしの迫力ある表情は神秘的なムードの中でも映える。
特にラストの無数の矢を浴びる戦慄のシーンは圧巻!
なんと本物の矢を使ったそうで、鬼気迫る演技は素のリアクションともいえる。
黒澤さん、無茶するなぁ…笑
CGがない時代、首を貫通する撮影トリックも流石。

予言をする、もののけの老婆を包む怪奇なオーラ
夫を唆す妻の能面や狂気のシュールさ
鳥たちの乱入
動く森

…これらの不穏な演出がたまらない。

武装して弓や槍を持ち、馬を操りながらの三船敏郎や千秋実の演技、さりげないようで凄い。馬たちも。
毎度ながらロケーション、人数、装備品、セット…といった物理的なリアリズムにも圧倒される。

とどまることを知らない欲、妄信、疑心暗鬼、栄枯盛衰…
そんな普遍性に能の幽玄な世界観。
本作はエンタメ性よりも繊細な芸術性をより強く感じた。
個人的にはかなりのお気に入り。


p.s. BS録画で字幕付に切り替えられたので、聞き取りづらさのストレスなく鑑賞できた。
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