みかんぼうや

チャイニーズ・ブッキーを殺した男のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

3.6
【ストーリーはオーソドックスなハードボイルドサスペンス。しかし、カサヴェテスの独特なカメラワークとライブ感溢れる演出が唯一無二の陰のある艶めかしさを醸し出す】

ジョン・カサヴェテス作品4作目。私が大ハマりした「こわれゆく女」と「オープニング・ナイト」のちょうど間に製作された唯一の監督作品。このジーナ・ローランズが演じる精神衰弱の女性を描く2作品の間にして、全く毛色の異なる、しかし同様に淡々とした中に見える心理描写が魅力的なハードボイルドサスペンス。

物語の中核にあるのは、ギャンブルで作ってしまった大きな借金を返すために、とある殺人依頼を遂行せざるを得なくなった男の話で、この筋書き自体を文字で表すと、正直なところそれほど目新しいものではありません。いや、むしろ映画としてはよくあるストーリーの類でしょう。しかし、カサヴェテス特有のカメラワークや即興的演出を感じさせるライブ感のある映像と、主人公の男コズモがストリップクラブのオーナーである設定から作品に漂う陰がありながらも艶めかしい作品全体の独特な雰囲気により、ただのハードボイルドサスペンスには終わらない、唯一無二の世界観を持った作品だと思いました。

肝となるストーリーラインは、先に書いた通り結構シンプルな殺人物で、その展開に大きな動きや驚きがある作品ではないので、サスペンスとして物語の展開ありきで考えると、上映時間に対してやや冗長に見えなくもないかもしれません。

しかし、ストリップクラブでの会話やショーの生々しさ、夜の街と店に漂うじとっとした空気感、主人公コズモのどつぼにハマり階段から転げ落ちるような不安定さを感じながらも、実は窮地に追い込まれることでその強さを放つ独特な魅力、そしてその過程を自然な流れで映し出す即興に裏打ちされた演出と演技を堪能できれば、途端に映画としては噛むほどに味わい深くなるような感覚がありました。

個人的に分かりやすさもあって「こわれゆく女」「オープニング・ナイト」のほうがより面白味を感じましたが、本作も独特の空気感がある作品で、またいつか観直したいと思う作品でした。

しかし、配信終了と知り、慌てて観てきたカサヴェテス作品たち。なんと配信終了日当日に全部配信延長になっていました。他の作品そっちのけで観たのになんじゃい(汗)!面白かったから良かったですが、もうちょっと楽しみはとっておいてゆっくり観ればよかったです。ということで、カサヴェテスマラソンは一旦ここまで!
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