櫻イミト

華麗なるヒコーキ野郎の櫻イミトのレビュー・感想・評価

華麗なるヒコーキ野郎(1975年製作の映画)
4.0
「明日に向って撃て!」(1969)「スティング」(1973)に続くジョージ・ロイ・ヒル監督×ロバート・レッドフォード三部作の最終作。撮影は「ベン・ハー」などオスカー三度受賞のロバート・サーティーズ。音楽ヘンリー・マンシーニ。原題「The Great Waldo Pepper(偉大なるウォルド・ペッパー)」。

1920年代アメリカ。第一次世界大戦で出陣を望みながら飛行教官を命じられたウォルド・ペッパー(ロバート・レッドフォード)は、現在は遊覧飛行と曲芸飛行で食いつないでいた。腕には自身がありドイツ空軍の伝説パイロットだったエルンスト・ケスラーに憧れを抱いていた。やがて、仲間になった元空軍のアクセル(ボー・スベンソン)、女曲芸師メアリー(スーザン・サランドン)と共に飛行サーカス団に入るが、ショーの中身は次第に過激になっていき。。。

「攻殻機動隊S.A.C」の神山健治監督が最も好きな映画としてこの三部作を挙げていた。男の悲哀を描く“時代に間に合わなかった男”三部作と勝手に呼んでいるとの事。“ヒコーキ野郎”な主人公には、宮崎駿監督の「紅の豚」(1992)や「風立ちぬ」(2013)と同じロマンが感じられた。

レッドフォードがイケメン風に登場するので爽やかな男の話かと思いきや、話が進むにつれて“空を飛ぶ事しか頭にない”ダメ人間なことがわかってくる。商売敵をケガさせ、嘘の経歴で女を口説きロクな男ではない。特に中盤で起こる悲劇の後の態度は、自己中心的な人でなしに見えて非常に印象が悪かった。

なのだが、観終わって振り返ればその人物像にはリアルさが感じられ何か懐かしい気分になった。本作はアメリカン・ニューシネマの延長戦とも言える一本と言える。

CGなどない時代なのでアクロバット飛行はすべて本物。地面スレスレの低空飛行や高度飛行中の翼歩き、前方に突っ込む逆宙返りなどが、見事な主客映像で捉えられて迫力が凄い。個人的には高所恐怖症気味なのでずっと冷や冷やしていた。

スーザン・サランドン(当時28歳)は出世作「ロッキー・ホラー・ショー」(1975)の直前の出演。強気が魅力のキャラクターを好演しており、それだけに退場の仕方がショッキングだった。このシナリオもニューシネマらしい生き様の描き方だと思う。

終盤、主人公は映画の飛行スタントマンとなり撮影現場で偶然に憧れの男と邂逅する。いよいよ “空中の騎士道”が繰り広げられることになりクライマックスに至る。それまでに何度も飛行に伴う危険が描かれているので、二人の行動がいかに命を顧みない馬鹿げたことかがわかる。だからこそ画面から純粋なロマンが立ち上がってくるのだ。

昨今の風潮ではこのような生き方はあまり描かれないし共感もされにくいと思う。懐かしく感じたのはその為だ。かつては自分にもあったロマンへの昂揚を思い出した。

映画内の監督が主人公に語る「史実と芸術的真実は別物」という台詞が妙に印象的だった。
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