三四郎

舞姫の三四郎のレビュー・感想・評価

舞姫(1951年製作の映画)
4.7
美しいなぁ、綺麗だなぁ、高貴だなぁ
映画の冒頭から高峰三枝子を眺めながら一人溜息をつき恍惚としていた。色香漂い落ち着きがある、和服姿がまた絵になる。

川端康成の作品を映画化したようだが、素晴らしい出来だと思う。成瀬監督作品は好みではないが、この作品は最も彼らしくなく、だからこそ私の中では秀逸に思えるのだ。彼が不得手とするブルジョア階級の話だが、よくまとまっており煮え切らないところがなくて良い。

娘や息子は優しくて、旦那は不器用で、20年もお互いを慕い続けている相手の竹原も紳士然としていて、これ程素敵な内容はあるかしら、なかなかないぞ…そう思わせる宝石のような作品だ。原作を読んだわけではないが、登場人物の性格やあらすじを読む限り、原作よりも映画の方が「綺麗」な筋になっているのではないか?

東京駅で母が書いた竹原宛の手紙を渡し、「お母さまを許してあげて」と言う岡田茉莉子に「お母さまが幸せになればそれで良いんだから」と優しく微笑する立派な紳士。
最後は高峰三枝子の潤む瞳と旦那山村聰のほっと安心したような顔、そして俯瞰撮影。これは圧巻。

印象的なシーンは、夜、家への帰り道、竹原が訪ねて来て「困りますわ」と言い二人は日暮れの暗い暗い海辺で話す。海と波が感慨深い。

追記2020.2.9
やっぱり映画はこうでなければ!
モラルに即した、それでいてロマンス溢れる結末。
最後、自宅のバレエ稽古部屋でひとり物思いにふける夫。そこへ過去を断ち切った妻が帰って来る…二人の表情を映し、夫婦を捉えるキャメラがグーンと上がっていき俯瞰撮影になる、そこで松がスクリーンの左上に映る。まるで日本画のように。
このラストシーンが実に美しい。
松は、この夫婦の再出発を、家族の新たな門出を祝し、ハッピーエンドを表現しているのだろう。

この作品は、波子(高峰三枝子)の心の動きを徹底して波で表現している。波の挿入シーンが多い。吉村公三郎監督なら、心理描写のために服の黒・白・模様も、さらにこだわっただろう。成瀬監督よりも吉村監督の方がこの階級の作品には向いていたように思える。

考える自由を奪われていた頃(戦争中)、あの頃、家庭は平和だった。この母と娘の会話が1度目にこの映画を見たときからずっと忘れられない。

高峰三枝子から百済観音像へ…。文章で書くほど露骨ではないが、このシーンはなかなか興味深い。
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