Omizu

年上の女のOmizuのレビュー・感想・評価

年上の女(1958年製作の映画)
4.5
【第32回アカデミー賞 主演女優賞、脚色賞受賞】
傑作古典ホラー『回転』のジャック・クレイトン監督作品。ジョン・ブレインによる同名小説を原作としている。カンヌ映画祭では女優賞(シモーヌ・シニョレ)を受賞、英国アカデミー賞では主演女優賞に加え作品賞も受賞、アカデミー賞でも作品賞、主演女優賞、主演男優賞(ローレンス・ハーヴェイ)、助演女優賞(ハーマイアニ・バドリー)、監督賞、脚色賞の6部門にノミネートされ2部門を受賞した。

終盤のキレッキレな演出は流石ジャック・クレイトン。ほとんどホラーのような映像表現が素晴らしい。

主演はローレンス・ハーヴェイのはずなのにシモーヌ・シニョレが全て持って行ってしまう。女優賞を総ナメしたのも納得。ちなみにこの年って女優がすごくて、ノミネートされたのがオードリー・ヘプバーンにキャサリン・ヘプバーン、ドリス・デイ、エリザベス・テイラーと錚々たるメンツ。

『回転』もそうだったけど、ジャック・クレイトンはどんどん底なし沼に沈んでいく感じがする。どうしようもなく深みへとはまっていく感覚が共通しているなと思った。

田舎から出てきた野心家のジョーは婚約者のいる令嬢スーザンをものにしようとするが、同じアマチュア劇団のアリスとも不倫関係に陥る。この時点でもうズブズブの沼に足をつっこんでいるのだが、更に深く深く墜ちていく。

終盤が本当に凄い。鏡を使った演出や、アリスが死んだと聞いたときにジョーの背後に赤ちゃんと「Help」という文字が書いてあるポスターが映り込んでいたりとその後を暗示するような巧妙な演出が凄まじい。

ラストのキレ味もぞっとするほど残酷。本来なら幸せのフレーズとして聞こえるはずの「死が二人を分かつまで」という言葉が恐ろしく響く。

この時代の男女観から逸脱したようなアレンジもすごい。不倫が周知の事実であり、どうやらその前にもやっているらしいアリスは「アバズレ」と言われるが、男のジョーはそんなことは言われない。と思いきやそれはそれでかなり残酷だという描写になっている。

シモーヌ・シニョレの肉感がすごく、そりゃ評価せざるを得ないよね。地獄に向かってどんどんドライブしていくストーリーテリングに目が離せない。流石ジャック・クレイトンと言うほかない恐ろしい作品だった。
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