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十戒のMelkoのレビュー・感想・評価

十戒(1956年製作の映画)
3.6
「今の口づけで私のことが手に入ると思った?いいえ、それは違うわ。絶対に手に入れられないものの味を教えただけよ」

たしか小学生だった頃、夜中に起きてしまい、リビングに降りたら母親が深夜放送の映画をみていた。それが「十戒」だった。「何見てるの」と母親にあらすじを聞いてもピンとこない宗教映画。しかもその時に見てたのはめちゃくちゃ後半パート、ユル・ブリンナー扮するラメセスの頭上に雹が降ってくるシーンだった。内容はよくわからなかったけど、空から降ってくるのは雨か雪という概念しかなかった子供時分、このシーンがとにかく怖かったのを覚えている。
今回初めて通しで見てみて、このシーンがあっけない一瞬で、恐怖心を克服することはできた。
だがやはり3時間40分は長かった……
インターミッションは2時間ちょい過ぎのところ。しかもその後はほぼ駆け足で進む。

特殊効果が売りの大スペクタクルなのは分かるがそれも結構な後半にならないと出てこない。それまではひたすら人間ドラマと大量のエキストラで引っ張る。

「プリンス・オブ・エジプト」を鑑賞済みのため、話の内容をほぼ全て分かった状態で鑑賞。だがあのアニメ作品ではしつこいぐらい描かれていた、『モーゼとラメセス兄弟の確執』が、こちらではほぼ描かれていないことが、個人的にはすごく勿体無く感じた。
赤ん坊から急に成人へ成長する2人、王族として共に生きてきたモーゼが実は奴隷の子供だと分かっても、全く動揺することなく追放するラメセス。父であるファラオの方がよっぽど困惑・葛藤していた。こちらの作品では、何かと出来の良い弟にオイシイところを持って行かれてしまうが自尊心だけは巨大で残念なラメセスのことを、徹底的に「ダメな奴」として描いていたのが、善悪の構図が分かりやすくはあるものの、それで良いのか?とも思ったり。

その代わりに描かれていた、妹ネフェルティリとの関係性は興味深かったが、些か尺を割きすぎな気も。
出自がどうであれ、愛する人はモーゼただ1人。同胞を救うと決意したモーゼを前に、身を引き裂かれる思いで送り出し、愛してもいない男の妻になり(しかも実の兄)、子供を産み。宿命で再会したモーゼは妻子持ちになっていた。色仕掛けももう効かない。モーゼの頭の中には「神と救済」しかない。
女目線の「十戒」
確固たる自我があるのに、周りの人たちに振り回され、ある意味一番の不運を被るネフェルティリ。演じたアン・バクスター、ねっとりした演技が印象的。

ラスト付近畳み掛けるようなVFXは、噂に違わぬ出来栄えでびっくり。
伝説の海がパッカーン!は、ホントどうやって撮ったのだろう…70年近く前の作品だよ…?

あと印象的だったのは、モーゼの同胞ヘブライ人の描かれ方。生まれつき奴隷として「誰かに命令される」人生しか歩んでこなかった人たち。
その反動か、自由を与えられるととんでもなく享楽に溺れてしまい、声の大きい人物の言うことにいちいち左右されてしまう。
結局のところ、信仰心も自己都合。
物事の善悪はちゃんと自分で考えて判断することの大切さを学ぶ。
その悪の部分を体現した、好色コウモリ野郎デッサンが、憎たらしいしキモいしで、役者さんナイス奮闘。割れ目に落ちた最後はスカッと。
そいつが美人の奴隷リリアを振り回すシーンも長かったなぁ。

前半、中盤パートが間延びして感じられたのがちょっと残念であったが、絵の力はすごかった。
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