カタパルトスープレックス

暖簾のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

暖簾(1958年製作の映画)
4.6
すごい作品。森繁久彌の一人二役!

川島雄三監督は自分自身が漂浪者(ドリフター)で住む場所と職場を転々とします。一つところに留まれない性分だったそうです。そして、その性分は川島雄三監督作品にも表れています。『洲崎パラダイス赤信号』も『幕末太陽傳』も仮の宿。『女は二度生まれる』も仮初の関係。『しとやかな獣』だって仮面家族っぽい。

本作『暖簾』はそんな漂浪者である川島雄三監督には珍しい家庭を描いた作品です。主人公の八田吾平(森繁久彌)が子供の時に淡路島から大阪へ丁稚きたが奉公先が見つからず、昆布屋の浪花屋利兵衛(中村鴈治郎)に拾われるところから物語ははじまります。商売する場所に入るところからはじまるのが川島雄三監督っぽいですよね。

そして、商売に勤める姿が認められ、暖簾分けを許されます。定住の場を築く機会を与えられます。しかし、川島雄三監督作品なので台風や戦争で定住の場は失われます。そこで登場するのが息子の孝平(森繁久彌)です。父親の吾平と息子の孝平を森繁久彌が一人二役をやります。二人が同じスクリーンに登場する場面をどうやって撮影してるんだろう?あれはすごい。

息子の孝平は父親に似て商才を発揮します。しかし、吾平と違って一箇所に留まることを好しとしません。頭が良くて喧嘩も強い!若い方の森繁久彌かっこいい!そして年寄りの森繁久彌も頑固じじいっぽさがいい!あ、あと娘の年子を演じる環三千世がカワイイ!若い方の森繁久彌と環三千世が兄妹でじゃれ合う姿が微笑ましいです。

でも、ボクは奥さんのお千代を演じる山田五十鈴がすごく好きなんですよ。森繁久彌が好きだったのは同じ奉公人のお松(乙羽信子)だった。自分はお松と比べて可愛らしさがない。それは自分が一番よく知っている。だから商売人の女将として旦那にハッパをかける。でも、森繁久彌がつらい時にそばにいて優しい言葉をかけるのはやっぱり山田五十鈴なんですよ。

山田五十鈴と乙羽信子の間のわだかまりが本当に解れる最後。本当によかった。