このレビューはネタバレを含みます
実は羊肉の花束は人肉だったとか、犯行がバレたポポールがエレーヌに罪を着せるとか……
そんな展開はまるでなくヌルっと終わる。シャブロルである。
令和の世の中。
「肉屋!」なんて、捻りも飾り気もないタイトルをそのまま邦題にできる配給会社があったら名乗り出てほしい。潔いよ。
女の子のパンの上に血が滴り落ちてくる。
分かりやすく衝撃的なのは、たったのこのワンシーンだけ。
このワンシーンのインパクトだけで不穏さが全体に充満するような感覚になるのが凄い。
しいて言えば、ポポールが自らを刺すシーンは衝撃展開とも取れるのだけども、
シャブロルの周りは心臓の悪い人ばかりなのかと思うぐらい、名古屋コーチン級に驚かさないようなヌルヌルした作りになっている。
(名古屋コーチンの話はダウンタウンの松ちゃんが流布したと思われる都市伝説ですが……)
クロマニョン人が壁画のような「芸術活動」という現生人類に繋がる行動を起こし、それはやがて文明となり、今なお着実に進化しているけれど、そこに至るまで一度たりとも平穏はなく、戦いの歴史が続いている。
ポポールは、そんな「文明」の歴史の犠牲者だったと言って差し支えないだろう。
戦地でも「肉屋」だ。
戦場PTSDで人を殺し続けてしまうという状態に陥っているポポールは、恋にそれを止める可能性を感じたのだと思う。
でも、そうはうまくいかないもので、エレーヌにその機が訪れていなかった。
「あなたを腕に抱きたかった。いつも一緒にいて、あなたを愛し、守りたかった。」
「いつかあなたを無人島へ連れて行きたかった。」
過去、酷い男によって心に深い傷を負わされたエレーヌにとっては、
身近な人間に手をかけた連続殺人犯だと分かっていても、心がグラグラ揺れるほど嬉しい想いも込み上げていたんだろうな。
ポポールが死ぬ寸前に飛び上がるようにして、
「キスしてくれ!」
と叫ぶのは笑ってしまったのだけど、
このキスがポポールの戦いに終止符を打ち、同時にエレーヌの恋の封印を解いたのだと思うと、死んでも良いほど美しいシーンのように感じた。
二人の出会いとなった結婚式の帰り道、
エレーヌが言った「幸せそうね」の言葉に対し、ポポールが「結婚はいずれ破綻する」と言う。
エレーヌは自らの言葉とは裏腹に、ポポールの言葉を理解できるところがあって、傷を負った似た者同士だと直感的に感じたんじゃないかしら。
だから自然と惹かれていったような気がする。
それにしても、ヌーヴェル・ヴァーグの監督が作る作品には、自分の恋人や嫁への愛情が溢れがち。
ダイアナ妃みたいで綺麗でしたね、ステファーヌ・オードラン。