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阿片戦争のkossのレビュー・感想・評価

阿片戦争(1942年製作の映画)
3.5
マキノ正博のフィルモグラフィの中で最も特異な作品。国策映画だからではない。国策映画なら他に2本ある。日本語で英国と中国の戦いを描いているからでも、コスプレのように付け鼻で日本人俳優が英国人を演じているからでもない。全編にハリウッド・スタイルを模倣しているからだ。それはグリフィスの「嵐の孤児」の引用だけでなく、大規模なセットも対立の見せ場も大群衆も日本映画の位相とは異なっている。

ハリウッド・スタイルの典型が宴の舞踊シーン。縦横に構図をとる群舞を俯瞰でとらえ、最後は群舞がはけて林則徐が屹立する。ハリウッド・ミュージカルの代表的な演出手法を行っている。

この作品は日本では不評だったが、国策映画の中でも「南方向映画」に選ばれ日本国内だけでなく、香港、シンガポール、ベトナム、フィリピンなど日本軍占領・駐留地域でも公開されたという。

監督マキノ正博、脚本小国英雄と黒澤明(ノンクレジット)、林則徐に二代目猿之助、原節子と高峰秀子の姉妹、音楽服部良一、特撮円谷英二。現在から見ると豪華なメンバーがプロパガンダを担った。

この東宝製作の大東亜共栄圏建設のプロパガダ映画に対して、同年に満映と川喜多長政の中華電影が同じ林則徐の伝記である「萬世流芳」を李香蘭出演で製作している、こちらは当然、全編中国語。

ハリウッド・スタイルの映画はアジアの各地で受容されており、その文化帝国主義的力を利用することが有効であると日本軍国主義は判断したのだろうか。何よりマキノのハリウッド・スタイルは貴重である。
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