しのごの

浮き雲のしのごののレビュー・感想・評価

浮き雲(1996年製作の映画)
3.5
主人公の状況が他人事とは思えなくて、「もし自分が同じ立場に置かれていたら…」と眉間に皺を寄せながら鑑賞していた。
私なら突然 理不尽にクビにされ、かつ理想の転職先も なかなか見つからないことに対して怒り、恨み、恐れ、絶望、自己憐憫など ありとあらゆる負の感情を爆発させて酒浸りになっていたと思う。
私が こんなふうになったのは あいつのせいだ、職場のせいだ、社会のせいだ、国のせいだ、って。

つらいことや苦しいことがあると、過去の出来事についての後悔と未来の先取り不安に押し潰されて ”今” が全く見えなくなってしまうから、焦燥感に駆られて冷静な判断ができなくなってしまう。
夫婦が最後の望みを託してカジノに乗り込んだ気持ちが痛いほど分かる。
結局、そうなっちゃうよね。
あのシーンは笑うところだったのかしら。
そのままギャンブルの泥沼に ずぶずぶ沈んでいかなくて本当に良かったけれども、紙一重だったようにさえ思えるから怖い。

かなり淡々とシュールに描かれていて動きも台詞も少ないから、登場人物たちの感情が読み取りづらくて最初は戸惑ったけれども、次第に愛着が沸いてくるから不思議。
カメラの動きも少なくて暗転も多いためか、映画というよりも舞台を観ているような感覚だった。
これがカウリスマキ節なのかしら。
だとしたら、クセになるのも解る。




カウリスマキ監督の最新作『枯葉』が観たくて、監督予習として本作を選んだ。
本作は学生の頃に観たはずなのに内容は全く覚えていないことに驚いたし、自分の記憶力の無さに情けなくもなったけれども、素敵と思える映画に改めて巡り合うことができたからラッキー。
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