教授

BULLET BALLET バレット・バレエの教授のレビュー・感想・評価

-
若き頃はこの「スタイリッシュさ」に酔っていただけの自分。
ただ年齢を経て観ると見事な脚本に感動してしまう。

「何かを見ないようにしてきた」と自殺した恋人の桐子(鈴木京香)への喪失感。
まずワンシーンだけの出演になった鈴木京香の一点突破な「豪華さ」が映画の格を一段上げていて的確。
そのある程度歳を重ねてきた大人同士の精神のすれ違いの問題。コミュニケーション不全。
その喪失によって、恋人が自殺した拳銃と同じ形の拳銃を探し求める純愛としてのフェティッシュは非常にロマンティック。

加えて、後藤(村瀬貴洋)たち「不良少年」たちと対比される千里(真野きりな)とのジェンダー的対比。
男性は他害に向かい、象徴的なのは出射(中村達也)の存在に象徴される。
しかし桐子も千里も、基本的には内向した暴力としての「自殺衝動」に向かう。
それ故に、自縄自縛的に「死」に近づく主人公、合田(塚本晋也)が特異点になっていく構造が見事。

そこに後藤や千里の若い世代の暴力性。
彼らを怒らせ敵意の象徴にいるのが合田の世代。そして更なる暴力の本質を知る「戦争体験者」の工藤(井川比佐志)という3世代のレイヤーも描き込まれる。
戦後世代の持つ空疎な虚無性を前提にした暴力性、あるいは「セカイ系」的なロマンチシズムを打ち砕く「生」としての本物の暴力を打ち出す工藤の凄みは、あまりのルックスの見事さに一見「ホンモノ」と見紛う出射との対比も見事(実際に「死」が迫った際には覚醒剤を打ってしれっと現実逃避しているシーンなどがさりげなく挿入されている)。

また「虚無」と「孤独」と「死」の苛烈なやり取りの中で覚醒したのは、まさに傷だらけになり、痛みを刻みつけながら、別々の生に走り出す合田と千里でもあるし、あるいは抗争の後、ただただ残された現実と、暴力を目の当たりにして「目覚めた」後藤の子供のような嗚咽が、よりその「回復」を志向するポジティブなメッセージとして映画を彩っている。
教授

教授