茶一郎

サテリコンの茶一郎のレビュー・感想・評価

サテリコン(1969年製作の映画)
4.3
 富、ぜいたく、女、饗宴、悦楽、したい放題の悪癖の数々、幸福が人々を貧しくする様をグロテスクに描く『サテリコン』。
 俗悪で退廃的な現代のローマを映した『甘い生活』から再びローマという町を描いた本作『サテリコン』は、『甘い生活』から時を遥かにさかのぼり、古代ローマを物語の舞台にします。本作がフェデリコ・フェリーニ監督にとっての初めての時代劇となりますが、フェリーニは舞台が古代ローマであることを利用し現代のローマを誇張して描いた、本作を現代劇とも捉えることができます。
 カラー映像という武器を手に入れた「映像の魔術師」・フェリーニの、鮮烈な、グロテスクで、エロティック、凶悪、目に毒な映像は必見です。

 『サテリコン』、本作は西洋最古の小説と呼ばれる詩人ペトロニウスの『サチュリコン』を原作にした作品。親友のアシルトに恋人の美少年ジトンを奪われた青年エンコルピオの、数奇すぎるアシルトとジトンを探す旅がストーリーの軸となります。
 しかし『甘い生活』同様、ストーリーはあって無いようなもので、本作『サテリコン』は『甘い生活』における狂言回しのマルチェロを青年エンコルピオに置き換え、グロテスクで退廃的なローマを映し込む古代ローマ版『甘い生活』と見る事ができると思いました。

 兎にも角にも、「考えるな感じろ」と言わんばかりの映画。映画の脚本家になる前はカリカチュア画家として生計を立てていたフェリーニらしい誇張された悪魔的ビジュアルが全編を包みます。
 何より最も印象に残るのは中盤の「トリマルキオの饗宴」のシークエンス。文字通りな「酒池肉林」な世界をそのまま映像にし、巨体、肉塊、豚の腸詰め、と夢にまで出てきそうな圧巻の映像が展開しました。

 何とも俗悪で凄まじい映像のパワーを持っている『サテリコン』。本作で提示される幸福と悦楽が逆に人間を下落させるというテーマは、フェリーニがローマを舞台にした三作「ローマ三部作」で一貫したものです。そして本作『サテリコン』は舞台を古代ローマに設定したことで、そのテーマの普遍度を強調させた一本と言えると思います。
茶一郎

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