YohTabata田幡庸

菊次郎の夏のYohTabata田幡庸のレビュー・感想・評価

菊次郎の夏(1999年製作の映画)
4.2
帰り道にたむろしている不良。
夏休みに遊びに行っても、家族で旅行に行っていない友達。
夏休み、マサオ少年は近所のおじちゃんと、生き別れた母親を探す旅にでる。そして始まる、ひと夏の冒険。

と言えば、普通に泣かせる良い映画になりそうな物なのだが、一度北野武が撮ると、想像もしていない何かになる。

物凄く特異なのだが、美しくて、切なくて、可笑しくて、馬鹿馬鹿しくて、くだらなくて、優しい。

所謂ロード・ムーヴィーではなく、間にスキットの様な物が挟まって行く。その多くは、今となっては決してやれない、差別的な物が多い。デブだのハゲだのインディアンだの裸だの。だが、声を上げて笑っていたのも確か。

北野作品に通底する物だが、兎に角登場人物が歩く。それをワイドで撮る。OTSは驚く程ないし、CUは余程のシーンでないと使わない。私の知っている映画の文法とはかけ離れた物だ。それがいつも新鮮で見入ってしまう。ショットが美しい。説明が矢鱈少ないのも北野作品の特徴だ。行間を読ませるのが本当に上手い。
タイヤのホイールキャップのカット、グラス目線、トンボ目線と言う、カッコ良くも誰もやらないショットが印象的。グラス目線は後に庵野秀明がやっていたか。

言わずもがな、久石譲の「Summer」は、この映画を観た事がなくても一度は耳にした事がある曲だ。そのモチーフが、少しずつ形を変えて常に繰り返される心地よさ。只、話の笑える感じとはかけ離れた名曲なので、曲のイメージで観ると面食らう事間違いなし。

ズッと明るいのだが、何か寂しく、切ないのは「ソナチネ」をはじめとする一連の北野映画に通底する。北野武流の人情落語の様な作品なのだろう。笑いながら泣いた。

この映画を撮るの、楽しいだろうな、と思った。
YohTabata田幡庸

YohTabata田幡庸