Omizu

黒い潮のOmizuのレビュー・感想・評価

黒い潮(1954年製作の映画)
4.0
【1954年キネマ旬報日本映画ベストテン 第4位】
山村聰監督が井上靖の同名小説を映画化した作品。山村聰を筆頭に左幸子、滝沢修、東野英治郎といった渋い面々がキャスティングされている。

1949年に起こった下山事件の真相を追いかける記者たちを追った社会派作品。記者の視点だけに絞ったのが上手く、山村聰演じる社会部デスクを通してメディアの公平性が揺るがされる様を骨太に描いている。これはかなりの傑作では。

事件の概要だけを表面的に描くことは避け、あくまで新聞記者としての立場から見た視点で一貫させている。また他殺、自殺という明言は避けてジャーナリズムの本質に迫った作品になっている。

はやる記者を抑え、確証もないのにセンセーショナルにかき立てることを頑なに拒否する速水。なぜそこまでこだわるかというと、速水にはある過去があったことが明かされる。

下山事件と速水という個人に起きた過度なメディアの暴力性を結びつける脚本が見事。弱さと強さを同時に持った速水というキャラクターを繊細に演じている山村聰が素晴らしい。

正確さが求められるはずの新聞、しかし上層部はそれよりも売れるかどうかだと言う。本質が歪められたジャーナリズムの本質を突くような鋭い作品だ。黒澤の『醜聞』が中途半端に終わってしまった部分を本作は見事に描いている。

テンポがよく整理された演出も素晴らしい。ほとんど新聞社内で起こるのに全くダレない。速水というキャラクターに命を吹き込んだ山村聰がとにかく偉い。俳優としても監督としても完璧。素晴らしかった。
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