りふぃ

ものすごくうるさくて、ありえないほど近いのりふぃのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

喪失を抱えた人々が、それぞれの喪失を受け入れ、歩みを止めない物語。

ポロポロ泣いてしまった。
内容に感動したのと同時に、私もまた喪失を抱えて生きてきたからだ。

最初は主人公オスカーの視点からしか物事が見えず、全体像がよく分からない。
だが、やがて、母親視点が混ざったり、後出し情報が出てきたりして、段々とパズルのピースが埋まってゆく。
そして、オスカーがなぜ狂ったように鍵穴を探し続けるのかが理解できるようになる。

オスカーはずっと赦しが欲しかった。
父の死が確定したことを父から直接聞くのを恐れて電話を取らなかった結果、父と話す機会を永久に失ってしまったため、ずっと赦しが欲しかった。
父が遺した鍵によって、何かが開かれ、その何かがオスカーを赦してくれるのではないか、と探し求めていたのだ。

だが、実際には、ウィリアム・ブラックという、青い花瓶をオスカーの父に売った男性が自分の父親との確執を終わらせるのに必要なものが入っていた。
つまり、オスカーが探していた鍵穴は、オスカーを赦す何かを有してはいなかった。

しかし、彼は諦めず、父との思い出を辿ることで、9.11発生前まで父とやっていた「調査研究」の修了書(?)をブランコの裏で見つける。
そして、以前は乗れなかったブランコにも乗れるようになった。
これは、オスカーが父の死を受け入れ、前に進むことができるようになったことを表現しているだろう。

人の死は唐突であればあるほど受け入れ難く、喪失による悲しみは想像を絶するほど長く続く。
自分でも終わらせなければ、と思うが、そうやって焦れば焦るほどトラウマが蘇ってくる。
しかし、動き続けることが大切なのかもしれない。
動き続けることで、点が線となり、やがて自分を悲しみから掬い上げる網となるのかもしれない。
その網は決して一人では編めない。

オスカーの周りにいた、母や祖母、祖父、それから「ブラック」の人々というように、相互作用を通じて、喪失やトラウマを克服してゆく。
あるいは、完璧に乗り越えることはできずとも、緩和されてゆく。

何かを失って、ひどく悲しんでいる人にオススメしたい映画だ。


P.S.
(1)祖父が出てきたのは蛇足では?というレビューを拝見したが、オスカーの父は祖父のことをほぼ知らないと言っていたため、オスカーの父もまた父の喪失をずっと抱えていたといえる。
また、オスカーの祖父の両親も爆撃で亡くなっているとのことだったので、祖父もまた喪失を抱え続けて生きてきた。
オスカーだけではなく、みんな喪失を抱えていると表現するために入れたかったのではないかなあ、と私は思った。

(2)オスカー役のトーマス・ホーンがすごい演技力だったので他作品も観てみたいとなったのだが、これを除くと映画はなんとあと一作しか出演していない。
元々俳優志望ではなかったようで、UCLAで生物工学を専攻後、法科大学院に進学し、現在はアシスタント弁護士?だそう。
役のキャラ設定を超えて、リアルに天才だったようだ。
りふぃ

りふぃ