クシーくん

夜光る顔のクシーくんのネタバレレビュー・内容・結末

夜光る顔(1946年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

江戸川乱歩の探偵小説に若干フィルムノワールを加味したような作品。第二次大戦後、戦時利得税を脱税していた悪徳な軍需成金の元に「夜光る顔」を名乗る怪人から犯行予告状が届く。刑事が大勢張り込んで万全の態勢で待ち構えていたにも関わらず、まんまと宝石を盗まれてしまう。
脱税の共犯者であり、金持ちを恐喝している悪徳弁護士や、守銭奴の父親を憎む息子など、一癖ある人物が捜査線上に浮かび上がる中、果たして「夜光る顔」の正体とは…という話。

74分という短い中で、やたら多い登場人物や無駄に複雑な筋を加えている割には、ミステリーとしては正直全く面白くないが、街中に突如として現れる瓦礫だらけの廃墟や、だだっ広い道路を横切る進駐軍のジープ、何の脈絡も無く現れる外国人など、終戦直後を否応にも思わせる描写や情景が多分に差し挟まれており、随所に見所のある作品。

この頃の邦画にありがちだが、特に時期が時期だけに機材が悪かったか、声が非常に聞き取り辛い。何度か巻き戻さないと聞き取れない箇所がままあった。単純に俳優達の活舌、発話にも問題がある気がするが。

この手の作品にしては珍しく、徹底して死人が一人も出ないのが面白い。当然本作はGHQの検閲を受けている筈で、殺人を取り扱えなかったのだろう。ラストシーンなど犯人はどう見ても致命傷を受けているのだが説明台詞で死んでいない事になっている。

「夜光る顔」に扮した犯人は怪人二十面相のような怪盗というよりも、金持ちから富を民衆に分け与える義賊のように描かれており、謂わばプロパガンダ的な要素があるのも否めない。民衆という曖昧な言葉を作中頻用し、己の欲得に執着しゆすりたかりを行う悪徳弁護士(見明凡太朗)を民衆の対極にある救い難い俗物として示している。ただし、戦時中、弾の出ない銃を製造した為に多くの若者を死なせた戦時利得成金という、民衆からすれば憎むべき男を徹底的に悪辣な人物としては描かず、血も涙もないと息子から痛罵を受けていたにも関わらず、最後は自らの非を悔いて家族の為に涙する人物としている。作劇の都合と言えばそれまでだが、この違いはどこにあるのだろうか。

ラストは主人公である山崎警部(宇佐美淳也)が戦時成金も悪徳弁護士も夜光る顔も全て罰を受け、裁かれることを会話の中で示唆し、警部がカーテンを開けると長い夜が明け、朝日が差し込む…という爽やかなエンディングを迎える。骨肉の争いを繰り広げるよりも前非を悔いて罪を償い、希望に満ちた明日を生きようという、ともすると楽観的に過ぎる結末は、戦後本作を鑑賞した人々の気持ちに寄り添ったものであっただろうか。
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