つかれぐま

エル・スールのつかれぐまのレビュー・感想・評価

エル・スール(1982年製作の映画)
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【父と娘の蜜月、その終り】

スペインの政治的分断を創作のエンジンにしつつ、決してそれを前景化させることなく、あくまで一家族の物語として映画を綴る。『ミツバチのささやき』から通じるビクトル・エリセの作風だ。

主人公の少女と父の話。
娘の眼から見た「父親の変化」同時にそれは「娘自身の成長」という、父娘の蜜月とその終りまでの数年間の話だ。娘から父への愛が消えたようには見せない。ただ幼女時代の盲信から、新しい関係を模索する。その刹那に漂う哀しさを、どの父娘にも通じる普遍的な話として見せる。

本作は娘がエル・スール(南)へ向かう所で終わっているが、当初の構想はもう1時間かけて「南」に行った娘が描かれるはずだったらしい。父親の謎や(どうにもしっくりこない)母親との関係といった伏線が、後半回収されるのを見たかったが、ここで終わっても(謎は謎のままでも)十分見応えがある作品だった。