櫻イミト

美女の皮をはぐ男の櫻イミトのレビュー・感想・評価

美女の皮をはぐ男(1962年製作の映画)
4.5
ユーロ・トラッシュ映画の雄、ジェス・フランコ監督が初めて世界に知られた初期出世作。フランス×スペイン製ゴシック猟奇ホラー。原題は「The Awful Dr. Orlof(恐怖のオルロフ博士)」。原作・脚本もフランコ監督。

1912年スペイン首都マドリッドの夜。酔っ払ってアパートに帰った若い女が不気味な顔の男にさらわれる。男の名はオルフォ。元監獄医オルロフ博士が蘇生させた盲目の死者だった。博士は火傷を負った娘の顔を元に戻すため、若い女性の誘拐殺害を命じて皮膚移植実験を続けていたのだ。タナ―警部の懸命な捜査をよそにまたも発生する連続誘拐。ある夜、オルロフ博士(ハワード・バーノン)は警部の恋人でバレリーナのワンダ(ダイアナ・ロリス)に目を付ける。。。

驚くほど好みの一本だった。初期ユニバーサルの怪奇ホラーと仏のグランギニョル映画「顔のない眼」(1960)をミックスしたような独特の味わいがあり抜群に楽しめた。

何といっても怪人オルフォの造形が突き抜けている。両目に義眼メイクを施した顔は“人間の剥製”のようなリアルな違和感があり悪夢に出てきそうなインパクト。マッド・サイエンティストによって蘇生の設定はフランケンシュタインの怪物、マント姿で女性の首元に噛みつく様はドラキュラ、博士の言いなりに動く殺人キャラクターは「カリガリ博士」の眠り男チェザーレを彷彿とさせる。

映像も撮影・美術ともセンス良く決まっていた。“クラブ黒猫”のステージやオルロフ博士の古城ロケーションに低予算の隙は感じられず、屋外ロケはじめロングショットの構図には仏ルイ・フィヤード監督の連続活劇や同郷スペインのブニュエル監督作品が発するシュールな白昼夢感が漂っているように感じられた。

役者の質も不足なし。ヒロインと火傷娘の二役を演じたダイアナ・ロリスは当時スペインの花形女優とのこと。当時ヨーロッパの耽美SM画から抜け出てきたようなゴージャスなルックスで、バレリーナ役の設定により非日常的な衣装で活躍するのも見所。タイトルロールのオルロフ博士を演ずるハワード・バーノンはフランスの名優。メルヴィル監督「海の沈黙」(1947)で主演、ゴダール監督「アルファヴィル」(1965)ではマッドなブラウン教授を演じている。

音楽の使い方はジャズ・マニアのフランコ監督ならでは。米ユニバーサル・ホラーや英ハマー・プロの怪奇映画ではありえないオルガン・ジャズが違和感なくハマっている。

先に観た「ヴァンピロス・レスボス」(1970)では耽美&サイケ、60年代初頭の本作ではクラシックホラー&グランギニョルと、どちらも個人的嗜好をズバリとついてくる独特な映画で、すっかりフランコ監督にハマってしまった。両作とも落としどころが予定調和的でそれだけが惜しいのだが、それをカバーして余りある本編の魅力に満ちあふれている。引き続きフランコ監督&ユーロ・トラッシュ映画を掘ってみようと思う。

※オルロフ博士はフランコ監督のオリジナル・キャラクターとして後の監督作に何度も登場する。

※邦題「美女の皮をはぐ男」は当時(1964年)輸入配給した大蔵映画が命名。

※イギリスのホラー映画「ロンドンの暗い眼」(1939)でベラ・ルゴシ演ずるマッド医師の名もオルロフ博士。盲目の従者を使って連続殺人を犯す。フランコ監督は当時この件を指摘され「偶然」と答えたが、後に同作を観ていたことを思い出し「無意識に引用したかも」と語った。
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