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クルーレスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

クルーレス(1995年製作の映画)
3.6
 ビバリーヒルズの高級住宅街、今日着る服をパソコンのマッチング・サイトで決めるシェール(アリシア・シルヴァーストーン)の当時の最先端ぶりが凄まじい。コスメのCMっぽい空虚なオープニング。訴訟関連の弁護士として辣腕を振るう父親メル(ダン・ヘダヤ)との2人暮らしの豪邸には、お手伝いのルーシーがいる。弁護士として多忙な父親は、今夜ジョシュ(ポール・ラッド)が来るぞと娘に告げる。シェールの父親とジョシュの母親が再婚し、離婚したのは5年前の出来事であり、シェールはうんざりした表情を隠さない。弁護士で多忙な父親を見送った後、彼女はハイスクールへ向かう。父親が買ってくれたジープを運転するシェールだが、まだ運転免許はない。途中、大親友のディオンヌ(ステイシー・ダッシュ)をピッキングし、ジープで登校する彼女の姿は裕福な暮らしを謳歌する。母親は彼女を産んだ直後に他界し、父親との2人暮らし。同級生の男の子をタダのガキンチョと決めつけるシェールの唯一の趣味は、学園の地味な女子をクールに変えることだった。当時スクリーンで拝見して以来、22年振りに観たが、アリシア・シルヴァーストーンのキュートさは変わらない。逆に男の子たちのルックスはもう少しグランジ風味、ヒップホップ風味丸出しだと思っていたが、幾分あっさりとしていたのは驚きだった。裕福な家庭の子供たちのビバリー・ヒルズ青春白書は、同じ年に産み落とされたラリー・クラークの傑作『KIDS』とは対照的に、どこまでも楽天的でLAの空のような開放的な空気に満ち満ちている。

 ポケベル、バギーパンツ、鼻ピアス、やたら重くて部屋電の子機のようだった初期携帯電話 笑、逆さまに被る帽子、シンディ・クロフォードのエステ・ヴィデオ 笑、ビーバス・アンド・バットヘッド、アズディン アライアのドレスなど幾つもの90年代を彩るメタ的ファッションが主人公たちを彩る。音楽もThe Muffsの『KIDS IN AMERICA』を筆頭に、No Doubt(Gwen Stefani)の『JUST A GIRL』、Radioheadの『MY IRON LUNG』、Supergrassの『ALRIGHT』、Coolioの『ROLLIN' WITH MY HOMIES』、The Cranberriesの『AWAY』、Counting Crowsの『THE GHOST IN YOU』、Beastie Boysの『MULLET HEAD』のような当時の『カレッジメディアジャーナル(CMJ)』の常連だったナンバーがまるでジュークボックスのように流れるが、HIP HOPは監督であるエイミー・ヘッカーリングの好みではなかったようで殆ど流れない。裕福な家庭の子供が通うぼんぼんな高校にもスクール・カーストはあり、女たちはジャンキー・グループをイケメン・グループの下に置き、相手にしない(当たり前といえば当たり前だが 笑)。校内のマドンナであるシェールとディオンヌの白人黒人コンビが冴えない女性たちを次々に劇的に変身させるのは、彼女たちの潜在的な優越感に他ならない。彼女たちは野暮ったいファッションとややぽっちゃりした体型を持った田舎からの転校生タイ(ブリタニー・マーフィ)を変身させ、クラス1のイケメンであるエルトン(ジェレミー・シスト)とくっ付けようと躍起になるが、当然の如く恋愛映画においてヒロイン以外の女は不幸に襲われる。しかし主役と脇役の主従関係が逆転するのが今作の肝に違いない。

 1990年代初頭、ソ連との冷戦構造が崩壊し、アメリカは平和な日々を送っていた。それと時を同じくして海の向こうで起きたイラクのクウェート侵攻やボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を扱っているものの、ビバリーヒルズに住むジェネレーションXと呼ばれた若者たちには、ブラウン管テレビから受け身で受信する対岸の火事そのものである。アメリカ同時多発テロ事件が起きるのは、2001年9月11日のことである。ラリー・クラークの『KIDS』やハーモニー・コリンの『ガンモ』など、片田舎の少年たちの鬱屈した姿を映した物語は映画史にその名を刻まれ、今作の裕福で平和そのものな家庭像はヒットはしたものの簡単に忘れ去られた。だがウディ・アレン映画の常連俳優だったホール先生(ウォーレス・ショーン)の移民受け入れのディベートの授業など、今思えば保守派エイミー・ヘッカーリングなりの未来のアメリカへの強い危惧と警告が滲んでいる。ピズモ・ビーチでの環境活動は結局、自尊心を失ったシェールのただの気の迷いのボランティアに過ぎなかったが、ジェーン・オースティンの恋愛小説の古典である『エマ』を大胆に翻案した物語は、お嬢様だったシェールに成長を促す。スクール・カーストで鼻から相手にしていなかったトラヴィス(ブレッキン・メイヤー)の王子様化を見て、考えを悔い改めたヒロインは、運命の男性にようやく巡り会う。アリシア・シルヴァーストーンの可憐さもさることながら、今作は無名時代に冴えないタイを演じたブリタニー・マーフィの会心の1本に他ならない。ハリウッドでの成功を掴みかけた矢先、志半ばで天国へと旅立ったブリタニー・マーフィのご冥福を改めて心よりお祈り申し上げます。
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