これは、微妙に下手で笑えない。
どう下手かと言うと、ただ微妙に下手だとしか言いようがない。その下手さ加減は最初のいくつかのショットを見せる長さの中途半端さやブラックアウトの時間のいい加減さから既に見て取れるが、この手の微妙な下手さ加減が最後までつきまとう。なまじ映像がスタイリッシュなだけにちぐはぐで気になってしまう。
話の展開はゆっくりだがそれなりにネタ自体は面白い。だから何か起こりそうでつい最後まで見てしまったが、何か起こったのは登場人物の中の一人だけ。あとは本当に何にも起こらなかた上に、最後のママの一言もしょぼかったのであきれてしまった。
何でちっとも面白くならなかったのかとつらつら考えるに、理由は、分不相応な白黒でフィックス多用のスタイリッシュな映像だけではなかった。出てくる女の子と留守番する子供(留守番する家の住人の方)の二人を演じる役者が下手で、ほとんど演技していないのに等しい状態なのだ。
この素材で参考にするなら、ジャームッシュや小津ではなく、ウェス・アンダーソンやガス・ヴァン・サントあたりがセオリーでしょう。リスペクトしているからと言って、自分の資質やテーマを考慮せずに真似されては見るほうが辛い。それよりも何よりもまずはコメディーなのだから、取りあえずは、ある程度うまい役者連れてこないと失敗すると思うのだが、その辺りで既に躓いているところを見ると、この監督はそもそも劇映画や舞台など、普通の芝居の演出経験はないのだろう。
メキシコってやっぱり映画監督の層が薄いのだろうか。この手の映像だけスタイリッシュで演出力も脚本も今一の映画監督が目につくような気がする。同じラテンアメリカでも、ブラジル辺りだと演出だけはまず及第点なのだけれど。アメリカに近いから優秀な人は国外に出て行ってしまうのだろうか?
にしても、これがヒットしてしまうということは、題材的にはやはり時宜を得たものだろう。色々な意味でもったいない作品だ。とはいえ、微妙に外れ、というのは後を引くので精神衛生上よくない。
劇場公開時にフライヤーに惹かれスクリーンで見ようと思っていたのを諦めて、DVDの旧作レンタルになるまで待ったのは正解でした。ただし、DVDでもメキシコ事情に興味がある方以外には見ることはお勧めはしません。
にしても、こういうオフビートなコメディーに関して言えば、アメリカ映画は不当に冷遇されていますね。『バス男』とか『クラークスII』あたりがビデオスルーとかCSのみ、でこのレベルのものがミニシアターとはいえ劇場公開出来る、というのがちょっと信じられず、狐につままれたような気分になりました。
(2008/3/29記)