みかんぼうや

競輪上人行状記のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

競輪上人行状記(1963年製作の映画)
3.9
【社会派教訓物と見せかけて、徹底したエンタメ性が光る、煩悩まみれのギャンブル依存症坊主のドロドロ人生。】

これは凄い。タイトルから風来坊ギャンブラーのお気楽人情物語といったほのぼのとした映画を想像していましたが、オープニングのピアノの強烈な不協和音ですぐにそんな映画ではないことに気づく。そして、その後に展開される昭和モノクロ映画特有の人間の欲にまみれた破滅的な物語。それは、社会格差やギャンブル中毒をテーマにした社会派人間教訓ドラマと見せかけた、エンタメヒューマンドラマ。

とある貧乏寺の次男でありながら僧にはならず、生徒思いの真面目な熱血教師として働いていた主人公。兄の死を境に寺の仕事に従事し始める。貧乏寺の再建の金銭工面に苦慮する中、ひょんなことから競輪場に行き、ビギナーズラックで大金を手に入れたこの男は・・・

話としては、いわゆるギャンブル依存症の話で、ギャンブル沼に溺れる一人の男の話、と考えると結構ベタベタな展開ではあるのですが、その主人公が仏の道を歩むお坊さんであり、ギャンブルのきっかけも寺の再建、という設定のユニークさと、次から次へと起こる大小様々なイベントによって、そのベタさ自体がかえって皮肉的な滑稽さに繋がっていきます。

結果として、本作では「ギャンブルは身を破滅させますよ。ギャンブル依存症には気をつけましょうね」といった分かりやすい説教臭さがあまり前面に出ず、むしろ、「馬鹿は死んでも直らないのだ、ハハハ」くらいの皮肉さがあったのが個人的には良かったですし、だからこそのあの見事なラストだったのだと思います。

掘り下げていくと、話の背景にある、当時の貧富の差であったり、寺院経営に対する考察もできるのでしょうが、そういったものを抜きに、物語の展開自体の娯楽性を感じる作品でした。

なお、本作は西村昭五郎監督のデビュー作とのことで、本作が面白かったので他作品も観たいとチェックしたところ、出てくる作品が「団地妻」とか「幼な妻」とか、そんなのばっかり・・・。と思ったら、この方、日活ロマンポルノの大巨匠だったのですね。私、無知で何も知りませんでした。日活ロマンポルノの記念すべき1作目の監督にして、監督ロマンポルノ作品が実に84作という最多記録を誇る大監督だとか。

全く観ない分野ではありますが、本作の物語性の面白さがロマンポルノ作品の魅力にも通じているのかな?そう考えると、マイナーな本作ですが、日活ロマンポルノという一時代を築いた監督のデビュー作として、その礎になった伝説的な作品だったのではないか、と急に思い始めたのでした。
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