半兵衛

愛の果てへの旅の半兵衛のレビュー・感想・評価

愛の果てへの旅(2004年製作の映画)
3.8
前半は偏屈なホテル住まいのおじさんをアーティスティックな長回しでひたすら観察するだけのドラマなのでやや退屈したが、それでも彼が見せる奇妙な行動や時折挿入される妙なカットや突発的な音楽の使用が刺激と緊張感を生みやがてそれがおじさんの真の正体とサスペンス的な展開へと結び付いていく演出には思わず唸らされてしまった。そして人と距離を取って生きてきた世捨て人みたいな主人公が、たびたび口にする人間の絆を大切にするという言葉の重みを誰よりも痛感していることを理解させそれがラストの覚悟に結び付くのも見事。

観客が観察していたはずのドラマが、実は第三者が観察していたという視点の移行がちょっと怖い。そして後半のアンダーグラウンドな世界が淡々としているのがリアルで、そのくせあっけらかんと残酷なことをやってしまうのにゾッとして裏社会の肌触りが強く感じられた。

主人公がたびたび通う喫茶店のヒロイン(アンナ・マニャーニの孫娘)は単なるお色気要員かと予想したら、まさかの主人公に愛の大切さを促す重要なキャラクターだった。そして前半エロい視点で彼女を見ている視線が、後半を踏まえるとあれは実は違う意味があったんだなと理解できる。

主人公が使う大金の数々、そしてヒロインが手にした車が迎える結末に「人間は身分不相応なモノを所持するとろくなことが無いよ」という苦いメッセージが伝わる。そしてその罰を受け入れつつ、愛を貫く主人公が尊い。

ラストは『ソナチネ』みたいだが、被害者と加害者でこうも違ってくるのか。
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