SQUR

ニュー・シネマ・パラダイス/3時間完全オリジナル版のSQURのレビュー・感想・評価

1.0
前半と後半で別の人が撮ったんですか?
ってくらい後半が酷い。
前半が素晴らしかっただけにその落差による落胆は激しく、憤りすら感じる。
前半は、トトの成長と、劇場の上映形態の移り変わりと、劇場を訪れる街の人々の中を流れる時間、そして大きな時代の流れが重層的に重なり合い、素晴らしい、完成された映画だった。新しい劇場が建てられたときは思わず涙しそうになった。
しかし後半、物語に恋愛の要素が入りだしてからは途端に映画は色を失っていく。正解には、童貞を捨てるシーンからだ。性を知り、恋を知り、人生の理不尽さを知り、それでも生きていく、「それこそが人生ですよ」と言わんばかりに定型の"人生の見本"が展開される。なんと安っぽいことか。このせいで、ここから先は全て物語ではなくお説教になってしまった。
帰還してからも蛇足の嵐なのだけど、初恋の女性の娘をストーカーするシーンは、映画としての文脈を加味してもだいぶきしょい。ここまで主人公をきしょく悪くする必要があったとは思えない。
その後の展開は『秒速5センチメートル』を想起するが、こちらはだいぶ往生際が悪い。こちらの方が"リアル"なのかもしれないが、きしょいことで旨みが出てくる映画でもないので困惑するだけ。
映写室の中に恋人を連れ込むことや劇場で性交したり騒ぐのも、映画のために生きるのではなく映画と共に生きることを表現しているのだと納得していた。上手いなあ、と。しかし、「トトは映画のために生きるべきだ」という話だったと語り返されることで、ここでも困惑する。本当に前半と後半同じ人が撮ってるの?
ラストシーンはだけは割と持ち替えしたようにも思え、"性的なシーン"であったはずのカットが、時間を経て2人の関係性の元ずっとトトを思っていたことを伝える映像に変わる。のだが、ここまで恋愛に関して説教くさいストーリーを展開してきたせいで今度は「キスのシーン」であることが別の意味を持ち始めてくる。"これこそが愛だよ"と言いたいんだろうなあ、と。意味の二重の上書きである。しかもよく考えると目が悪くなってから編集したわけではないので、このフィルムがいつ何のために作られたのかがボヤけて来る……。
SQUR

SQUR