王冠と霜月いつか

羊たちの沈黙の王冠と霜月いつかのネタバレレビュー・内容・結末

羊たちの沈黙(1990年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「どうだね、クラリス、子羊の悲鳴は止んだかね?」

何度目かの視聴。そういえばレビューをまだ挙げていなかったのと、前日の“口直し”に大好きな名作を。

元FBI捜査官・プロファイラーのロバート・K・レスラーさんのベストセラー本『FBI心理分析官』が流行ったのが、1994年。映画の公開は、1991年で原作者トマス・ハリスは、そのロバート氏から得た情報で、ハンニバルシリーズを書き上げたそうです。直接的な関係は無くとも、私の大好きな海外ドラマ『クリミナル・マインド/FBI vs 異常犯罪』もその流れを汲む作品です。

ただ、映画もドラマも、プロファイラーが事件の先頭に立って銃を撃ったり犯人と格闘したりするのは現実ではなく、あくまで、地元の警察官に分析したプロファイリングの資料を提供し犯人逮捕に協力するというのが主な仕事だとロバート氏が苦言を呈するなんて事もありました。ただ、そのプロファイリングのマニュアルを作るのに、何人もの異常犯罪者たちに面接を行ったのは事実で、それが、今作のクラリスとレクター博士の伝説の名シーンに昇華する訳です。

改めて観てこの映画が凄いと思ったのは、
顔面のアップ多用なんですね。レクター博士の迫力を強く印象付けたのは、この顔面アップ多用カットなんだなと。クラリスは勿論、上司のクロフォード、同僚のアーディリア然り、勿論バッファロー・ビルも。基本会話劇なので、印象的なシーンは登場キャラクターのアップが多いんです。前にレビューを書いた、『刑事グラハム・凍りついた欲望』に出て来るSirホプキンスじゃないレクター博士が印象うっすーいのは、そういうカットが皆無だからなのだと理解しました。単純な事なんですが、単純だから意外とやらなくて小洒落たカメラアングルで撮って結果伝わらないみたいな(笑)あ、勿論、ホプキンスさんの演技力有りきでの話ですけれど。

タイトル『羊たちの沈黙』って。原題は
The silence of the Lambs で直訳してそのまま邦題ですが、意味分かります?私はわかりませんでした。
作中で、クラリスの子供時代の経験と、それが彼女のトラウマになっている事、生後1年以内の子羊の皮を剥ぎ、なめして作る最高級のラムスキンの製法と、バッファロー・ビルの犯行とが重ね合わされている事。引いては被害者たちは、強制的に沈黙させられ、生贄となってしまう子羊という意味なのかなー?
でもなんだか腑に落ちない。
でも、世の中の事が少しわかってくると、子羊=キリスト教の世界観と気が付くんですね。つまり、クラリスの経験も、一般的な人間(キリスト教圏の)を指し、無力で群れるしかない我々は、神に導かれるべき「迷える子羊」であり、沈黙と悲鳴との間を彷徨う存在なのだ。なーんて感じ、我々日本人だと意味不明なタイトルも恐らく、『彼等』には感覚的に当たり前の感じなのでしょう。
違ーよ!って方はコメントで教えて下さい。

やっぱり改めて観て好きなのは、Dr.チルトンの持ってるお高そうなボールペンをじーっとレクター博士が眼で追っていて、レクター博士を上院議員に合わせる前の手続きで、サインを求められたDr.チルトンが、あれ?ペンが無いと空港職員からペンを借りるカットから始まる、レクター博士脱走シークエンスですね。
拘束されていて、どうやって盗ったのかは不明ですが、そのペンの中身をパームトリックで、隠し持ち後ろ手に手錠をかけられた直後から手錠を外し、夕食を持ってきてくれた警察官に逆に手錠をかけ動けなくし、もう一人の舌に噛みついて😱…そして、小さな折りたたみナイフを手に持ち、どうするの?と思わせて、最下階で待機する警察官たちへ場面転換、エレベーターが動き出し、発砲音がして一気に緊張が走る、巡査部長が顔面に汗をテカらせてエレベーターに乗り上がる辺りがたまりません。舌を噛み切られた警官は顔面傷だらけになるもまだ息があり、レクター博士の姿は見えない。警官を担架に乗せてエレベーターで降りる途中に上からぼたりぽたりと落ちてくる血、エレベーターの屋根にレクター博士が潜んでいると判断した警官たちは、負傷した仲間を救急車で搬送させて、レクターを仕留めに廻ります。しかし…ここからは、是非とも作品をご覧下さい。ナイフの意味が分かります😱😱😱

ヴィックスヴェポラップってご存じですか?塗る風邪薬の。今でも販売していると思いますが、昔はTVCMとかしてたんですよ。クラリスとクロフォード達が、死体検分をするときに、鼻の下に何か塗るシーンがありますよね。死臭から鼻腔内を保護する意味だと思いますが、あれ、ヴィックスヴェポラップだそうです。風邪の三つの症状と死臭予防に、優しいママの手とヴィックスヴェポラップ。

久しぶりに観ましたが、やっぱり最高で最恐でした。レクター博士は恐ろしいキャラクターなんですけれど、作品中に出て来るどんな男性キャラクターより、クラリスに対して紳士的なのは皮肉ですね。

スコアは、5.0
グロいシーンもあって、全ての人にお薦め出来るかは疑問ですが、特別補正でフルスコアです。

「国勢調査員が、私を調べようと来たことがあった。そいつの肝臓を食ってやったよ。ソラマメとキャンティ・ワインと一緒にな」

Hannibal Lecter: A census taker once tried to test me. I ate his liver with some fava beans and a nice chianti.

十分な“口直し”になりました。