ブタブタ

アメリカン・スプレンダーのブタブタのレビュー・感想・評価

アメリカン・スプレンダー(2003年製作の映画)
3.5
『クラム』リバイバル上映が楽しみ過ぎて精神的続編とも言える本作を久々鑑賞。
冒頭〈精神と時の部屋〉の様な真っ白な空間でこの映画のナレーションを録音しているハービー・ピーカー(本人)
映画の中の俳優が演じるハービー・ピーカーの行動をハービー・ピーカー本人がナレーションを当てる。
メタ的な入れ子構造で本人による現実パートと俳優による過去パートで映画は進む。
三島由紀夫を描いた『misima』とかもそうだったなと思いつつ。
同じく「作家映画」だし。
佐藤健✖️神木隆之介の美青年二人ではなくハービー・ピーカー✖️ロバート・クラムのおっさん二人による『アメリカン・バクマン』

オルタナティブ・コミック。
日本なら根本敬。
漫画というよりも寧ろアート、前衛美術、実験文学と密接な関係にある分野。
オープニングは少年時代のハービー・ピーカーから始まる。
ハロウィンの「トリックオアトリート」でお菓子を貰いに家を訪問する子供ら。
皆アメコミ・ヒーローのコスプレをしてる中に一人だけ何故か「本人」のままの子供。
彼こそがハービー・ピーカー。
このアヴァンタイトルが実に象徴的。
NHKで見たドキュメンタリー『ジャック・カービー~コミック王の従軍記~』で、
『キャプテン・アメリカ』『ハルク』その他アメコミ多数の作者「アメリカン・コミックの帝王」ジャック・カービーは第二次世界大戦時、対ドイツ戦争に従軍しその時の過酷極まる戦争体験はヒーローそしてヴィラン、モンスターを生む。
ハービー・ピーカーが「退役軍人病院」で働いているというのが何が因果を感じる。
ジャック・カービーがアメコミ、スーパーヒーローコミックという非日常の世界を戦争体験から生み出したのとは対照的に、毎日毎日退役軍人病院の一室で山と積まれた書類に囲まれ全く変わらない鬱屈とした悶々の毎日から普通の人の基本何も起きない日常をコミックにしたハービー・ピーカー。
カービーが戦争という非日常からヒーローという希望や光を見出し作品にした、のと対照的にピーカーは何にも起きない日常から絶望や闇を見出し作品にした(カービー・ピーカーって名前も何か似てる)

一生懸命ひとつの事をコツコツやってればきっといい事があるとか、ある名も無き市井の人のほんのささやかな成功とか(←公開当時こういう感じで宣伝してた)全然思わない(笑)
だってハービー・ピーカーはコミック原作者としてアラン・ムーアと並ぶ、ハッキリ言って作家として天才だと思うし、レコード収集の趣味を通じてもう一人の天才であるロバート・クラムとあっさり出会い絵描いて貰うとか運もあるし完全に人生の成功者だと思う。
故郷に銅像迄立ってるし。
最後はほっこりする。
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