ヴィクトリー下村

イヤーウィグ/氷の⻭を持つ少女のヴィクトリー下村のレビュー・感想・評価

3.6
『エコール』、『エヴォリューション』の"変態"もとい"鬼才"ルシール・アザリロビック監督の新作。まさかのJAIHOで独占配信されていた。
好きな監督なので新作が日本で劇場公開されていなかったこともショック。

アザリロビック監督の作品といえば、多くの謎が浮かび考察の余地があるんだけど、今作はこれまで観てきた作品の中でも一番「?」だった。

物語は20世紀のヨーロッパのどこか。少⼥ミアは自分の唾液から作られた「氷の⻭」をつけながら過ごす日々を送っていた。彼女の世話をするのはアルバートという男。彼とミアの関係は分からない。

アルバートは時折、屋敷に掛かってくる謎の電話に対しミアの容態を報告している。ミアは光が遮られた屋敷から一歩も出られない日々を過ごしていた。そんなある日、アルバートは電話の主からミアを自分の許へ連れてくるように言われ…という内容。

説明がないのはいつものことだけど今作はいつにも増して謎が多い。
途中からは挟まれるウェイトレスのセレステの場面は物語をさらに混沌とさせる。

アザリロビック監督作品は、大抵子供が主役なんだけど今作で言えば主役は世話役のアルバートだろう。

アルバートがセレステと同一化したいという気持ちの下りがよく理解できなかったな。言葉通りに捉えるならアルバートは性同一の問題を抱えていたということなんだろうか。その反面、亡き妻との幸せな思い出もちょくちょくはさまれるし、正直アルバートの心情は分からない。

ミアとセレステ、2人の状況が重なっていく様は物語というか騙し絵を見てるような感覚に近いものを感じた。

そんな中でも相変わらず監督のフェチズムは炸裂している。これだけ意味不明な作品だが、序盤の少女の歯をこじ開けて氷の歯を作る過程はやたら丁寧。ビジュアルの美しさも健在。『エコール』、『エヴォリューション』の映像や雰囲気が好きなら人なら本作も気に入ると思う。

それにしてもこの監督の作品って、基本子供はどこかへ連れていかれてしまうな。