ビンさん

きまぐれのビンさんのレビュー・感想・評価

きまぐれ(2023年製作の映画)
4.0
俳優の瀬戸かほさんが原案・プロデュースで、瀬戸さんが出演された『クレマチスの窓辺』(00)の監督、永岡俊幸さんが続いて監督・脚本を担当した25分の短編映画。

岩田一家は父・智(内田周作)、母・和美(石本径代)、桃子(瀬戸かほ)、桜子(櫻井成美)の4人家族。
親戚の婚礼のため、家族旅行がてら東京郊外の街に来ている。
そんな家族の一日を追った物語。

同じく結婚を控えた桃子はマリッジ・ブルー、桜子は急に海外に行きたいと言い出す。和美は智に離婚届を突きつける。

さて、岩田家はどうなってしまうのだろうか、というお話。

まず、25分という時間でどれだけのことが描けるのだろうか。
しかも、岩田家にとっては一大事、一家の未来を左右する出来事が起こる。
これをどう収集つけるのか、と思いきや見事な終着点を見せてくれる。お見事!

そして、前作『クレマチス〜』と同じく、映像の切り取り方がいい。
それと『クレマチス〜』ではお婆ちゃんの幽霊、本作ではドッペルゲンガーと、オカルトなんて一番遠いところにある要素(笑)を、さり気なく漂わせる、そんなセンスが素晴らしい監督だ。

また、今回は監督が意識してかどうか、シンメトリー(左右対称)な構図が多かったように感じた。
一家が宿泊するホテルの廊下、部屋の内部、教会の内部、スペイン料理のカフェなど。
シンメトリーの構図は、均衡が取れている一家の本来の姿のメタファーであり、それが個々の思惑によってさざ波が立つ様子が、物語として描かれていく。

しかし重要なのは、物語は家庭内ではなく、一家が外へ出た処で展開される事象なので、あくまで外で解消されるのだ、とこれ以上書くとネタバレになるので控えるが、このプチ家族旅行は、個々が自分の家族に向き合える一つの機会なのだと捉えた。
故に鑑賞後はなんともいえぬ爽快感に包まれたのである。

25分で何が描けるか、と先に書いたが、そもそも分数が決まっていたわけではなく、予算や出演者のスケジュール、編集段階で冗長だと思う箇所を削ぎ落とした結果、25分になったと上映後の瀬戸さんと永岡監督によるトークショーで話題に挙がった件でもあった。

トークショーでは本作が作られた経緯や、撮影時のエピソードなどを詳しく語っていただいた。
そこで印象的だったのは、永岡監督は演者が台本に無いリアクションをしても逐一指摘せず本番に採用されるので、演技がやりやすいとの瀬戸さんの言。
永岡監督は撮影時の演者さんのリアクションを大事にしたい、最初から決ったとおりでは面白くない、と。

人によれば最初から自分の決めた演技を演者に求める方もいる。
それは監督の個性なので、どちらがどうと言えないが、本作の場合は瀬戸さんが監督には永岡さんを、と決めた要因の一つがそういうところだったようだ。
絶対の信頼がおける関係性だったのは、完成した作品を観れば自ずと理解できることだろう。

また、観客からの質問も募ってらっしゃったが、個人的には先に挙げた、当初の原案と完成形との違いと、劇中に登場するミネオショウさん演じる、桃子の婚約者のそっくりさんの、
「エスプレッソをダブルでシングル2つ」
という注文の方法の是非(笑)
ご存知のようにエスプレッソを頼むと、ちっちゃいちっちゃいカップで提供されることが多い。
僕はコーヒー好きなもので、少々高くともエスプレッソもレギュラーサイズのカップで飲みたいわけで、ああ、今度からああやって頼んでみようと思ったわけだ(笑)

ちなみに原点はジム・ジャームッシュ監督作品の一つなんだとか。
ビンさん

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