ももいろりんご

正義の行方のももいろりんごのレビュー・感想・評価

正義の行方(2024年製作の映画)
4.0
真実はいつもひとつ!…って嘘だよなぁと心の中で何度も呟きながら観た。
人が人を裁くことの難しさがのしかかる。
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「飯塚事件」という1992年に福岡県飯塚市で起こった2人の女児誘拐殺人事件の真相に迫るドキュメンタリー。この事件、すでに2006年に最高裁で犯人の死刑が確定、2008年に犯人とされた久間三千年(くまみちとし)の死刑が執行されている。しかし再審請求がされ、今なお遺族と弁護士は戦っている。
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とても見応えがあった。
そこに一つの事実があり、真実は人の数だけあるってホント。
当時とその後の捜査、裁判について語る死刑囚の遺族、事件に関わった刑事・警察関係者、弁護士たち、新聞記者たち。主張は対立しそれぞれがそれぞれの真実と正義を語っていた。
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感じた違和感は、死刑確定後2年での執行は早すぎるのではという点。久間は最後まで罪を認めず、状況証拠が積み重ねられた判決だったこと。久間=犯人と決めつけ証拠集めをしたような警察の動き。
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もし自分が被害者の親だったら、罪を認めない容疑者の死刑をどう受け止めただろうか。
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警察側は必死だった。女児2人への加害行為、殺人、山林への遺体遺棄。こんな酷い事件をそのままにしておけないのもわかる。しかもその少し前に似た別の未解決事件もあったことから、なんとしても犯人を挙げるという執念も感じた。
だからこそ、警察が先走ってないのか、検察は何やっていたのか、と疑念が浮かぶのも事実。
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同じ執念という言葉を使うなら、ジャーナリストたちも同様。スクープを先取りしたあの時の一面は本当に正しかったのか、報道の影響力を良くも悪くも振り返り、本事件を特集し続けた。
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二度と戻らない命を悔やみ、死刑執行後の再審という難題に取り組む弁護士たち。
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冤罪を声高に叫ぶでなく、同時に”死刑”で終わっていいのかと問いかける。足らない証拠について丁寧説明し、多くの視点で語られた本作で、私たちは人が人を裁くことの重さと恐ろしさを知る。
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事実はもうわかることはないだろう。
だからこそ、それぞれの正義を秤にかける。渾身のドキュメンタリー。