カイザーソゼ

成功したオタクのカイザーソゼのネタバレレビュー・内容・結末

成功したオタク(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

自分が激推ししていたアイドルが、ある日犯罪者になってしまったら、どうその事実に、また推してきた過去に、これからに折り合いをつけていけば良いのか?
当事者になってしまった本人が、周りの推し仲間たちにインタビューをしながら己のわだかまりを昇華させていくドキュメンタリー。

2018年に起きた「バーニング・サン事件」を軸に、チョン・ジュニョンが逮捕され、(V.I.も)そこからファンの苦悩が始まる...
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6

手作り感溢れるながら、自分がその立場だったらどうだろう、と考えたり、やっぱり許せない気持ちと、でもそうなる前までは本当に幸せだったし支えられていたよなという事実と、誰も綺麗にうまく折り合えてないというのが本当にそうなんだろうという点でも面白かった。
許せないし、ありえない、でも過去を全否定するのも、自分も含めた否定になるので複雑である。これからについても、不幸になれば良いと思っていない。慎ましく生きてほしい、でも幸せてはいてほしいという気持ち。

全員一致で、求めているのは、代わりの誰かでもない、犯罪をしない理想の推し。それがただただ永く続くことだった。でも、もうそれはありえない。その理想とのギャップを悶々としながら、時に強い否定をしたり、頑張って他を探す中でみんな何かを埋めていく。

主人公(監督)にとっては、みんなの考えを聞きながら自分を整理していくというこの度こそがその作業だったんだと思う。そういう意味では大成功だろう。

最後にお母さんが結構ズケズケ言っているのは、面白かった。
お母さんもお母さんである俳優を応援していて、ただわいせつ行為か何かで疑いを持たれた後すぐ自殺してしまったと。自殺したことが最悪だと。別の人は、死ね!って言っていたりもして、みんなはっきりした表明で面白いなとは思いました。

ただ、構成上仕方ないのかもしれないが、一方向性だなあとは思っていて、とにかく"被害者の私たち"の目線でしかない。当て逃げとも訳が違う、性犯罪などでいうと、そのさらに先にいる被害者への話はポーズとしてもあってよかったのではないかなあと思った。その被害者たちが見ても複雑な気持ちにしかならないんすよね。
あくまで私たちの期待を裏切った加害者が悪いという話でしかなかくて、性暴力をした加害者が悪いという(重なるは重なるが)話にはならない。
当然前者がメインなんだけど、登場人物は全員女性の中で、後者に想いを1mmくらい馳せてもよかったのではないか。とは気になったところ。
そうじゃないと、推しが犯罪者になっちゃったからこのグッズどうするあははというのがそっちは笑えて良いですねと引いちゃうんですよね。

性犯罪など被害者がクリアなものだとより厳しくないですか?殺人だったら同じ雰囲気でやれたんだろうか?そこは気になるところ。もちろん、それはさておきそういうふうに消化したいんだというのもわかる。

ただ、登場人物が全員女性の中で、また出てくる犯罪が性暴力/性犯罪といったトーンの中での、そういう"一方向性"は、この映画の中身で言うとマイルドとはいえ、ベクトルとしては暴力性ある方向だなと感じなかったわけではありません。

また、これもより丁寧に...でいうと、「バーニング・サン事件」やチョン・ジュニョンの経緯、パク・クネ大統領をめぐる話、についてはその文脈を知っていると知らないとでは理解度が全く変わる
事前に調べるというよりも、うまく劇中で解説を入れてもらえたらより重層的に理解が深まったのではないか(これは海外展開向けでしかないかも)と思いました。結構ここがあっさりで5-10分くらい使ってほしかった。

最後に。
監督であるオ・セヨンは、放送作家を目指していたと劇中で語られるが、結局、この事件をきっかけにドキュメンタリー映画作家として、韓国のみならず、世界に作品を出せている。これは間違いなくこの事件のおかげである。おかげというのも変なのだが。

僕がめちゃくちゃ興味があるのが、そこまで推せる存在と出会えたことと、またつらいことをきっかけにそれをどう消化するか?というアプローチが映画になったこと、またそれもその想いと行動力ゆえに一つの作品としてキャリアを築けるものには間違いなくなっていること、これを踏まえて、この時に監督とチョン・ジュニョンはどういう関係性になっていくのだろうか?
どこかで、その行為を許せる時が来るんだろうか?そもそも許すのは彼女なのだろうか?違うだろう。

どこかの点で終わるものではなく、二人の関係はずっと続く。
5年後10年後の思考を聞いてみたい。

でもかえすがえす、その先にいる(真の)被害者があまりに不在だと、それはあまりにも皮層的な消費というか、欺瞞的なニオイが消えないと思うんです。そうなりませんように。

きしくも、チョン・ジュニョンはこの3月に満期出所していたようです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7dced727a02b32334303ddd4bc4cd4ea9364d23d