たくみ

パレードのたくみのレビュー・感想・評価

パレード(2024年製作の映画)
3.7
【未練】
初めに。
震災の描写が含まれているのでそういったシーンが見れない方はお気を付けください。

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藤井道人×NetFlix。
近年の作品とはジャンルがかなり違う作品なのでどうなるのか楽しみにしていました。
本作の感想は製作過程を知る前と後で大きく変わってしまいました。
ですので、前半は鑑賞直後の感想を素直に、後半は製作過程や監督のバックボーンを知った上での感想を書いていきたいと思います。

以下ネタバレ全開ですのでお気を付けください。

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まず僕は藤井監督作品は『余命10年』しか観てないので作家としての癖とかはしらないです。
ただフィルモグラフィー的に毎度ジャンルが変わっている印象はありました。
なので今作がファンタジーとわかった瞬間にまた違うことをしていると驚きました。
テーマとしてはよくある感じのものです。
生前の世界に未練があり、あの世に行けない人々の群像劇です。
それぞれが抱える「未練」が徐々にわかりますが、結局は自分の気持ちにけじめを付けていくしかないので、その心情の動きを映し出します。

大きく分けると横浜流星パートとリリーフランキーパートになります。
横浜流星パートが個人的にはとても好きでした。
横浜流星さんはいつからイケメン枠じゃなくて演技派になったんですかね。
映画に出ていたら安心できる役者さんだなと感じました。
彼が演じるヤクザの勝利が、組と愛する人への思いに整理を付けていきます。
特に恋人に思いを馳せるパートが厚みがあって良かったです。
これこそベタ中のベタですが、役者が良いと観てられますね。
恋人役に深川麻衣さんを持ってきているあたりも良い配役だなと感じました。
2人とも感情を押し殺す表情が良いので、感情がこちらにも響く感じがしました。
「未練」が無くなった時の清々しい表情や、それに感づいた周りのかける言葉なども前向きに捉えている気がして良かったです。

もう一つのリリーパートなのですが、これは後半に書きたいと思います。
正直な事を言うと横浜流星パート以外は消化不良で終わった作品でした。
上映時間132分なのですが、それ以上に長く感じました。
1人1人をじっくり映している訳でないので、この上映時間を以てしても「未練」が解決していない人がほとんどでした。
はっきり言えば寺島しのぶ、坂口健太郎パートは描く必要があったのかなと感じました。
そこを中途半端に描いたので冗長になっている気がしました。
また、一番メインとなる長澤まさみパートもはっきりと解決するわけでなく、途中で「未練」が変わってしまうので「親子愛」のテーマからは外れてしまっているように感じました。
結局子供を優先するのではなく自分のやりたい事を優先してしまっている気がしていただけませんでした。

酷評っぽくなってしまいましたが嫌いな作品ではありません。
とにかく惜しいと感じてしまったのです。
あまり映画の感想で言いたくないのですが、ドラマにして欲しかったという思いが強かったです。
時間をかければ坂口健太郎パートや森七菜パートも描き込みできそうでした。
132分をかけて描いてほしい人間関係は描けていない作品だと感じました。

すみません、長くて。
ここからは調べた情報を踏まえた上での感想です。


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まず本作のキーパーソンは河村光庸さんという方です。
藤井監督とずっとタッグを組んできたプロデューサーで、本作製作中にお亡くなりになられたそうです。
そのため、河村さんの遺志を残す意義が本作には込められていると感じました。
作中のリリーフランキーはまさしく河村さんを描いています。
学生運動をしていた事や、星の砂を売る事業をしていたのも実話みたいです。

そんな彼が志し半ばで死んでしまった。
彼に映画を最後まで撮らせてあげたい思いが本作には込められているのではないでしょうか。
元々こういったストーリーだったのかもしれませんが、恐らく藤井監督なりの恩返しの意味合いが大きいのだと思います。
散々僕が無くても良かったんじゃないか言っていたシーンだって、河村さんと話が大盛り上がりした思い出のパートなのかもしれない。
だから観た人の評価とかどうでもいいのかもしれません。

本作で一番「未練」を残していたのは実は監督なのかもしれません。
だからこそ本作を通してけじめを付けたのだと思います。
マイケルに捧げる事が出来た時点で本作には意義があるのだと思います。


【その他メモ・独り言】
・成長したリョウ君の映画を観るシーンの2つ隣に綾野剛。
 彼も河村さんと作品作りをしている。
・七回忌おめでとうと言える世界線も素敵。
・作中の映画普通に観たい。
・素人として映画に出る事になったナナの演技が素人のそれじゃない。
・「空白」にあるモノを映すエンドロール。
たくみ

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