マインド亀

ポップスが最高に輝いた夜のマインド亀のレビュー・感想・評価

ポップスが最高に輝いた夜(2024年製作の映画)
4.0
ディランに萌えじゃくり!スター達の人間味溢れるエピソードにニヤニヤが止まらない、奇跡の一夜!

●80年代のアメリカのトップオブトップのアーティストが集結した「ウィー・アー・ザ・ワールド」は、やはりあとにも先にも、実現し得ない奇跡のようなプロジェクトだと、本作で再確認しました。
「ウィー・アー・ザ・ワールド」マニアの人にはよく知られた事実の連続かもしれませんが、本作はライオネル・リッチーを中心とした当事者たちのインタビューと当時の生々しいレコーディング映像で振り返ることによって、あの一夜が如何に奇跡だったかを、音楽的な面だけでなく、人間的な面でも見せてくれます。
Netflixのドキュメンタリーは良質なものが多いですが、本作は久々に心に残るヒットでした。もう、なんというか、感動も出来るけれどもワチャワチャしたトラブルを楽しむコメディみたいな感じですかね。

●何よりも、アーティストとして突き抜けた感性と常人には計り知れない思考力、そしてエゴを持つスターたちが、45人も集まって、すんなりレコーディングができるわけがないところ。
それをどうやって一晩で完成させるか、という、タイム・リミットサスペンス的な部分も面白い。
大スターたちは集団行動をすんなりするわけもなく、その殆どが突飛もない行動だらけ。
ちゃんとそれを事前に見据えた、ライオネル・リッチー、マイケル・ジャクソン、クインシー・ジョーンズの奮闘が何よりもすごいんですよね。もう不良な高校の修学旅行を引率する先生みたいな感じです。
事前に綿密な打ち合わせをするんですが、「予測不能な要注意人物は?」「スティービー・ワンダーとシンディ・ローパーだね」などのやり取りが面白い。ほんと、私もそう思うし、実際にその通り!
実際にシンディ・ローパーが歌うとノイズが入りまくりレコーディングは中断し、原因が体中にぶら下がったアクセサリーの揺れる音だとわかるまでスタジオをピリつかせたり(おしゃべりの犯人がわかったわ!ってジョーク交じりに謝るところかわいい!)、スティービー・ワンダーはスワヒリ語のコーラス入れたいって言い出してコーラス録音が中断、怒ったウェイロン・ジェニングスが退室してましたしね。
しかしながらこれが、なんとかまとまったのは、これがチャリティだということをしっかりと念頭に伝えたからですね。
写真を撮り合ったり楽しく喋りまくるスターたちを黙らせるために、バンド・エイドの提唱者ボブ・ゲルドフにアフリカの現状を喋らせる。「君たちは飢餓を理解してるだろうか」となかなかヘビーなことを最初に伝えたんですよね。ここで祭気分の彼らの目の色が変わりました。この時のマイケルの神妙な表情が泣かせます。
スタジオに入る前の壁に「エゴは入口に預けろ」と書いてあったのが最高の注意文でした!
それでも泥酔して悪ふざけしまくったアル・ジャロウ、お前そういうとこだぞ!
でも、このプロジェクトの提唱者ハリー・ベラフォンテの前で『バナナボート』を歌い出したのはファインプレイだぞ!(笑)

●いつも「ウィ・アー・ザ・ワールド」を聴くとスプリングスティーンの歌い方は、ちょっとやり過ぎ感を感じていたんですが、彼は声の調子が良くなくて、絞り出すように声を出していたんですね。
他の超一流アーティストたちでも、更に神のようなスティービーやレイ、マイケルの前ではコーラスすらやりたくないくらい恐怖と緊張感があるのがすごい伝わりました。「スティービーの前でコーラスなんて怖くて、ちょっとごまかしごまかしやってました」みたいな人間的なところが本当に可愛くて面白い。

●その中でも本作での一番私が萌えじゃくったのは、ボブ・ディラン。終始引きつった顔のボブ・ディランは、正直一番「俺、こんなところになんで呼ばれたんだろう」というかんじでした。コーラスのシーンでは一切口開いてないですしね、彼。
そりゃそうですよね。ハーモニーからは一番程遠い歌い方の人ですし(笑)。更にアーティストたちからも崇拝に近い状態だったので、めちゃくちゃ緊張したんでしょうね。彼、本来の自分の歌い方を忘れちゃった。
一流アーティストから崇拝の眼差しで注目されて、もう泣きそうになって撮り直しを繰り返すボブ・ディランに、可愛そうだけど萌えじゃくりました(笑)
それでスティービー・ワンダーが、歌い方をレッスン。スティービーのボブ・ディランのモノマネを本人が真似て歌うという、もうなんだかわからん状況の、あの歌声だったんですね。アドリブでうたっていたと思ったら全然違った(笑)

●で、そのスティービーの人の良さもまたビンビンに伝わりました。まさに天才。そして心優しいし誰にでも心を開いている。何よりもボブ・ディランの心の拠り所(笑)
レイ・チャールズが「トイレに行きたい」と言うとスティービーが「僕が案内するよ」と言って二人で手を取り合って歩いていくと周りのみんなが「ぜってーアイツ等分かってねえじゃん」って突っ込んだエピソードめちゃくちゃ好き!

●あと、マイケル・ジャクソンのデモの歌声が聴けるのが嬉しい。彼の声は本当に澄んでて優しい。彼がフレーズの始めを歌い出すだけで、その場の空気が変わるんですよね。そして泣けてくるんです。
このときはプリンスとの共演もあり得たのに、プリンス側が拒否。でも、それで良かったんじゃないかな。プリンスの代わりに歌ったヒューイ・ルイスの緊張感はすごかったでしょうけどね。多分プリンスがいたらもっとまとまらなかっただろうし、下手したらあの巨漢のボディガードがトラブルを起こしたかもしれませんしね。「別の部屋でギターを彈く」とかエゴまる出しでしたしね。でも集団に馴染めない繊細な人なんですよ。彼は。

●何よりもこのクソガキたちを一同に集め、常に笑顔とジョークで取りまとめたライオネル・リッチーの人脈と信頼関係の構築、冷静でタイムキーパーに徹するなクインシー・ジョーンズ、そしてひたすら純粋にこのプロジェクトを成功させようとしたマイケル・ジャクソンのカリスマ性がこのプロジェクトを成功させたのが本当によくわかります。
この3人で曲を作るときも、クインシーに「曲がいる」と言われて、苦し紛れにあの奇跡のようなフレーズが降りてきたとか、ライオネル・リッチー神すぎるでしょ。それで3週間でデモを作ったって、本当にやばすぎ。こんな奇跡が重なって作られた『ウィ・アー・ザ・ワールド』。もうこれ以上のプロジェクトは二度とできないでしょうね。
そんな本作は、奇跡としか言えない一夜の、スター達の人間味溢れる一面に萌えじゃくったりニヤニヤしまくる97分です。これは絶対観るべきドキュメンタリーです!是非観てください!!!
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