スローモーション男

ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版のスローモーション男のレビュー・感想・評価

4.5
 初めてのタル・ベーラ
『サタンタンゴ』の7時間は興味惹かれながらも躊躇してまだ観てません…。
 この作品が4Kリバイバルされるということで観ました。

 面白かったですが、タル・ベーラという監督の本質はまだ掴めませんでした。
 146分の上映時間でカット数はなんと37カットという驚異の長回し映画です。しかも、フィルム撮影だから凄い!

 若い男がハンガリーの故郷で体験する地獄のような出来事の数々。最初はバーで宇宙の惑星と神秘について説き、音楽家の師匠との交流が描かれるが、広場にクジラのオブジェがやってきて「プリンス」と呼ばれる扇動者の登場で物語は急変。

 この「プリンス」とクジラの存在が何なのか?「プリンス」は画面に出てこないのでいわば神のような存在。そしてその言葉に仄めかされ暴動を起こす町の人々。なぜ金持ちでなく病院を襲うのか?その不条理な世界をクジラだけが見ている。

 この映画は本質的なメッセージがなく、支離滅裂な物語構成をしている。ただ、それは現代社会も同じだ。なぜこんなことになるのかと首を傾げるような出来事の連続。ドナルド・トランプによって国会議事堂を襲撃した支持者たちともリンクするのです。この痛々しい社会をタル・ベーラは表現したかったのかなと思いました。

その後のラストシーンは別になくても良かったのでは?と思いましたが、記憶に刷り込まれた映画でしたね。