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Civil War(原題)のdeadcalmのレビュー・感想・評価

Civil War(原題)(2024年製作の映画)
4.7
ワシントン州ベルビュー、Lincoln SquareのCinemarkにて。

分裂し内戦状態となった近未来アメリカを舞台とする作品ということで、たまたまではあるけど、アメリカというまさにこの地でこれを観られたことは幸運だった。

主人公のグループが荒廃したアメリカを旅して首都ワシントンD.C.を目指すというロードムービー型の構成。ほぼBGMがなく、何もなければ静かで、鳥のさえずりが聞こえるだけの、のどかさすら感じる美しい自然と廃墟、そして響き渡る銃声。

静寂と緊迫した戦闘状態が同居するこの感じ、ノーティドッグの超傑作ゲーム『The Last Of Us』の世界観によく似ている。たぶん参考にしたんじゃないかなと思う。

作中、内戦が始まった経緯などは何一つ説明されない。「ひとたび極限状態が始まると、その状況が起こった原因は状況そのものから急激に関係なくなっていく」という監督の言葉通り、「そこに我々を殺そうとする誰かがいるから」が相手を殺す理由のすべてとなっている。そういう光景を淡々と描き出している。

政治的主張らしきものが全く出てこないのが人によっては不満点になりそうだが、フィクションにおける作者の主張は、現実世界と違い「神の視点から与えられる真理」という暴力的強さを持つので、このもやっとして掴み所がない、背景を見通すことが不可能な「いまここの状況」だけが存在し、後は観た人が憶測であーだこーだ言うことしかできない見せ方こそリアルなのだという気もするし、また余計な要素を入れないことで「戦争に巻き込まれる恐怖」という作品のフォーカスがより鋭くなっている。

印象的なシーンは多いが、中でもジェシー・プレモンスの登場するところ。一時的とはいえ「アメリカにいるアジア人」という立場であのシーンを観たので直撃ダメージを食らった。

一点だけ、「戦闘など人が死ぬ場面にかぶせられる明るいBGM」というクリシェがちょっと鼻についたというか、あまり効果上がってなかった気がする。BGMのないシーンの緊迫感が凄まじかったのでその路線を貫いてほしかった。
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