映画大好きそーやさん

VOIDの映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

VOID(2023年製作の映画)
3.3
喪失と時間の暴力性。
本作は、不慮の事故で友人を亡くした女子高校生の主人公が、その友人のことを忘れられないまま日常を過ごすお話です。
常に画面のどこかに不可解な存在が映り込んでいるような、絶妙な居心地の悪さを孕んでおり、ホラー映画の空気感としてバッチリでした。
男性ブランコの平井まさあきさんも出演していて、お笑いファンの自分としてはかなりテンションが上がりましたし、コントの上手い芸人さんなこともあって、抜群の演技力で恐怖の世界観を深める役割を果たしていました。
演技が上手すぎて、本業のネタで笑えなくなるのではないかと不安がよぎるほどでした。
女子校に通ったことはないですが、女子同士の会話のディティールはとても細かいように感じて、ちゃんとその世界が実在すると思えるように作り込まれているのも良かったです。
昨今インターネットが普及して、誰もがSNSで自分の世界をもてるようになったことで発生した(或いは、大きく注目を集めるようになった)虚無という概念が本作でも登場し、負の感情に対抗する術として語られていました。
ウディ・アレン監督の『ハンナとその姉妹』で見た、「人生は無意味である」にも通じるもののようにも思えます。
勝手に絶望することで本当に救われるのかと言えば、私としては頭を捻ってしまう部分でもあります。
それは解決の先延ばし、もしくは解決の放棄と言えて、根本的な解決は成されていないと思ってしまいます。
負の感情と虚無、その両者に対抗する術は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でも示されていた、優しさだと思います。
そういう意味で、納得感は削がれ、それに対するフォローもなかったため、どうにも入り込めないまま終わってしまいました。
と、ここまで書いてきたのは個人的な見解でしかなく、本作の本質はまた違った文脈の哲学に結実していきます。(本作で優しさに着地するのは違和感がありますし、私の求める答えはお門違いでしかありませんね)
主人公は友人の喪失によって生じた負の感情をもち続け、虚無の境地に至れていません。
心を擦り減らし、もう削るものもなくなった状態である虚無に手が届かない者は、現実を負の感情に犯されていくのです。
それらは私たちで言うところの幽霊的な存在として主人公の前に現れ、虚無の世界に連れ込もうとします。
もう考えても無駄だ。終わった方が、受け入れた方が楽だから、と。
でも、と反論し続ける主人公の心の強さには涙を誘われます。
主人公には誰1人仲間はいません。
周囲のクラスメートや家族はとっくの疾うに虚無に生き、自分を保とうとしています。
1人で負の感情として表出する霊的な何かと対峙し、中盤以降それらが大喜利的な切り口で次々と画面上に登場していく中で、やがて……というところで、本作は幕を閉じていきます。
心を擦り減らしても尚、自分だけはと健気に戦い続ける主人公を、誰よりも応援していました。
ただ1点不満を挙げるとすれば、恐怖描写が不可解なものを映すという一辺倒なものだったため、より幅広い怖がらせ方をしてほしかったなとは思いました。大喜利的ではありながらも、ずっとフォームは一緒なので新鮮さがどんどん薄れていく感覚がありました。
総じて、ホラーでありながら、喪失、はたまた虚無と孤独に戦うドラマという側面でも楽しめる作品でした!