おそば屋さんのカツカレー丼

ノスタルジア 4K修復版のおそば屋さんのカツカレー丼のレビュー・感想・評価

ノスタルジア 4K修復版(1983年製作の映画)
5.0
至極当たり前のことだけど、スクリーン内には時計がない。それでいてそこは光を落とした空間だから、スクリーン内で流れる時間は、スクリーンに映されるものに依存することになる。
普通の物語であれば、基本的に時間は過去から未来へ直線的に流れていくし、たとえ複数の時間軸か複雑に絡み合っていたとしても、部分部分の時間が直線的であることに変わりはない。しかしながらこの作品においては、どのシーンを取っても、時間の流れが直線的であると言い切ることができない。
温泉から立ち上る湯気や、動くことのない白馬、雨の降る廃墟といった要素によって、少しずつ時間の輪郭が曖昧にされていく。そしてこの作品では、時間は直線ではなく、点であるように思えてならない。点である時間は、作中で印象的な雨垂れが何度も落ちるように、同じ時間が何度も、何度も繰り返されるような時間であり、それは正に1+1=1である時空。私たちにとって最大の敵であると言っても過言ではない、現実の時間とは異なった時空を開いて見せること。戻りも進みもしないけれど、だからこそ全てがここに在ることができる時空。
しかし、このような時間もスクリーンという空間だからこそ看取し得るものであり、そのためこの作品は日常的空間(例えば家。そもそも寝ちゃうだろうし)で観られることを拒む映画だと思う。まるでスクリーンがそのまま『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の諸星あたるの家の代わりに亀型の宇宙船に乗せられているかのような、一種の時間的アトラクションであり、それはこれまで観てきた映画では感じたことのない崇高な経験であった。